豊島逸夫の手帖

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膨張収縮の連鎖

2007年3月5日

What a week!

全てのマーケット関係者が、TGIF(Thank God its Friday)、やっとながーい一週間が終わったぜ、と溜息ついた。

これまで各マーケット内で膨張し積みあがった雪庇(せっぴ)の下で、場内には雪崩警報鳴るなか、あとひとすべりとゲレンデに残っていた投機家集団を大規模雪崩が襲った。(ゴルフでも雷警報サイレン鳴って直ぐプレーを中断するに忍びない気持ちも分かるが...)。

一週間の間に、これほど膨張の収縮が集中する連鎖現象も珍しい。まさにリスクのグローバリゼーション現象である。

-発端は、一年で130%急騰した上海A株。規制され外には出られない中国国内過剰流動性。世界から見れば規制により参加できない。

-ローカル市場に集中した結果のバブル現象。ここでは、マーケット内部の喧騒で警報が聞こえなかったのか。

-次の連鎖は、NY株式。史上最高値を更新し、誰もが調整必至と見ながらも企業業績による銘柄物色が止まらなかった。投資家があまりにもcomplacent=楽観的に傾き、警報が鳴ってもたかをくくっていた。

-同時進行で、外為市場では円キャリー巻き戻し。これも、先週初めまで、いやというほどメディアで報道され、日経本紙は円借り取引という新語に統一を始めたくらい頻繁に使われる言葉となっていた。シカゴ先物市場に、これも雪庇のように積みあがった円売りポジションを見て、多くの関係者が警報を鳴らしていた。それでも、あとひとすべり、125円までなんとか引っ張ろうという市場関係者も多かった。(これは罪深いと思うよ)。

-そして米国住宅市場では、サブプライム不安の顕在化。これも住宅バブル破綻懸念という言葉で、昨年来メディアをにぎわしてきたトピックである。この問題を嫌気して、先週のNYは金融株が特に派手に売られた。

-そして、商品。金市場。NY先物買い残が404トンに達し、昨年5月の急落時に匹敵する膨張。さすがのETF残高も6トン減少と頭打ち。需給ファンダメンタルズから乖離(かいり)した水準で膨れ上がった先物買い。これも雪庇であった。いったん雪崩が起こると、今度は下げのモメンタムがマーケットを支配する。サポート水準と(筆者が)見ていた650ドルも割り込み、640ドル台へ。こうなるとアンダーシュート現象である。ここからはアジア中東のバーゲンハンターの出番だ。毎度お馴染み。ヘッジファンド撤退するなか、押し目を拾ってゆく。ETFバイヤーも同様。彼らの買いは、レバレッジ効かした先物ではないからノックアウトパンチ的効果に欠けるが、ボディーブローの連続でポイントを確実に稼いでゆく。"昨晩のNY市場はアジアの買いで急反騰"とはならないが、売り手仕舞い一巡したところでジワッと影響が感じられる。メディアの見出しになるのは3ヶ月後の需給四季報発表時である。

なお、今後の展開については2月27日付け本欄を改めて読み返してほしい。

いずれ調整局面も必至で、下げもあろうが、底は浅い。600ドル割れを見る向きはほとんど見当たらない。650ドル割れなら割安感、値ごろ感が出る地合いだ。総じて、調整売り必至だが、長期トレンドには変化なく、例によってレンジの段階的下値切り上げが続くというのが筆者の結論だ。ヘッジファンドの利益確定売り、さらに、いったん調整局面入りすれば、狼狽売りが長期的には買いのタイミングとなろう。円高に触発された円キャリー巻き戻しが思わぬ金の調整売りを呼べば、円建てでも面白い買い局面となりそうだ。

この筆者の見解はいささかも変わっていない。

さて、先週のリスクのグローバル連鎖現象の反省の上に各マーケットが問うていること、それがNew Price of Risk =リスクというものの価格はいったい幾らなのか、という命題だ。反省点は、これまでリスクの価格があまりに安すぎた。新興国債券利回りと米国債利回りのスプレッドの縮小が最も良い例。サブプライムだって、ローンを扱う金融機関のリスク意識が希薄ゆえ、頭金不要とか気前の良い条件を出してきた。借り手のリスク意識も希薄化し身の丈以上の物件に手を出す。先週末になって当局が慌てて審査強化措置を発表したが。

だからといって、今回の反動でリスクマネー撤退という言葉には抵抗感がある。そもそも今やリスクの無い金融商品などあり得ないのだから。要はもう一度冷静にリスクを再評価して、しかるべき価格=新たなリスクプレミアムを設定せねばならぬ、ということだろう。

New Price of Riskが幾らなのか問われている。そのリスクの裏には必ずボラティリティー(価格変動性)がある。先週のボラもハンパではなかった。マーケットの方向性に自信が持てないので、プロは、ボラの指標にベットする(賭ける)。VIXというボラ指数のオプションを売買するのだ。価格変動が上でも下でもその絶対的変動幅の当てっこゲームである。まぁ、これは隙間商品だが...。

投資家がcomplacent(無頓着)に成り過ぎているという反省に立ち、リスクマネージメントの重要性が再認識されよう。金も例外ではない。金は儲ける手段にあらず。資産を守る手段なり。金の教科書のABCをもう一度反芻してみよう。

2007年