豊島逸夫の手帖

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世界同時株安に揺れる金市場

2007年3月16日

金価格長期上昇ストーリーは、そう難しい話ではない。

需要面で中国、インドのアジアマネー、中東、ロシアのオイルマネー、そして金ETFという新商品により新規参入してきた欧米年金マネー。この"需要御三家"揃い踏みが続いている。

対して、供給面では、高値にもかかわらず鉱山生産量が増えてこない。埋蔵量はあるが、過酷な自然環境の中の鉱脈しか残っていないからだ。90年代に市場を騒がせた中央銀行の売却も昨年は半減。逆に膨れ上がる外貨準備をかかえる国の"ドル離れ"による金買いが今年のマーケットのテーマになっているほどだ。

ただし、それほど"おいしそう"な資産であれば、ヘッジファンドなどが黙って指をくわえて眺めているはずもない。平均3ヶ月サイクル程度で投機的売買を繰り返し、その度に市場は乱高下する。今回の上海発世界同時株安の局面でも、株の損失補てん、あるいは流動性確保のための金売り手仕舞いが集中した。
しかし、彼らの短期的売買が一巡し、一休みするたびに、落としどころとなる価格水準は趨勢的にじわじわ上がってきている。2004年は400ドル、2005年は500ドル、昨年は600ドル、そして今年は700ドルが視野に入る。それは、先述の御三家が、ファンドが売ったところの押し目を丁寧に拾い、一貫して買い上がってきているからだ。

統計的にみても、NY先物買い残高は200トンから400トンのレンジで膨張収縮を繰り返しているが、長期保有の指標である金ETF残高は右肩上がりの増加基調を続けている。中国、インド、中東の買いも、たとえば昨年前半のファンドの買いによる急騰時には模様眺めに転じたが、後半には"高値慣れ"して急増した。彼らの買いはレバレッジを効かせた先物ではないから、地味だが、ボディーブローのようなインパクトがある。

中国ファクターにしても商品市場としては陳腐化した材料だが、金に関しては国内の取引自由化進行中という要因もあり、本番はこれからだ。ロシアでも公的金購入の兆しが見られる。欧米年金の買いにしても、まだ始まったばかりである。ゆえに高値圏にもかかわらず、長期的には先高感が強い。

したがって、今後の見通しも、短期的乱高下を繰り返しながら、徐々に価格水準を切り上げてゆく展開となりそうだ。

国内金価格は今年に入り円高、円安により極端に変動が増幅される傾向がある。円キャリーの運用対象として短期的金買いポジションが形成される結果、円売り、金買い、あるいは円買い戻し、金手仕舞い売りが同時進行する傾向があるからだ。ただし、これは一過性の現象といえる。

なお、上昇にブレーキをかける要因としては、地政学的要因鎮静化、原油安、インフレ懸念後退、中国経済減速などが考えられるが、グローバルな分散投資というマネーの流れのモメンタム(勢い)は止まらないだろう。

(本稿は3月21日日経朝刊に掲載されます。)

2007年