豊島逸夫の手帖

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保存版"初心者向け 金が今なぜ上がっているか"

2007年11月4日

2005年12月2日付け本欄で首題の原稿を書きました。海外で500ドル、国内で2000円の大台を突破した時点でした。2年経った今、そこで述べた"金価格長期上昇を支える構造要因"は全く変わっていません。再録しますので、ぜひ、読み返してみてください。

【保存版】初心者向け"金が今 なぜ上がっているか"(2005年12月2日)

金価格急騰に連れ、初心者からの問い合わせが激増しているので、改めて、金価格上昇の背景と展望を簡単にまとめます。

原油高騰、インフレ懸念―"物価上昇"という感覚を、投資家がガソリンスタンドなどで実感するようになると、将来のインフレに備え、資産の一部をモノへ移す動きが始まります。それは、個人に留まらず、年金運用などプロの機関投資家にも見られます。その結果、金価格が上昇すると、その現象自体が"インフレの前ぶれだ"と見られるようになり、さらに投機的資金が金買いを煽って騒ぎ始めます。つまり、長期的に自分の資産をインフレから守ろうとする一般投資家の買いと、短期的売買差益を求めて徘徊するホットマネーの2種類あるのです。後者の参入は、当座の値動きを荒くするので、個人投資家としては、冷静に、少し下がったところを、何回かに分けて購入する姿勢が重要です。まとめ買いは避けましょう。なお、モノへの投資のなかでも特に金が注目されるのは、1970年代の2回のオイルショックの後で金価格が4倍に跳ね上がった歴史があるからです。


有事の金―戦争とかテロが心配されるような状況になると、最後に頼りになるのは金だという考えが強まります。一昔前は、米ソ冷戦、今は、イラク、イラン、パレスチナ、北朝鮮情勢などです。いわゆる地政学的リスクと言われる要因です。とくに、2001年9月11日の米同時多発テロ以降、有事の金という言葉が復活しました。なお、有事には、経済ショックなどの有事も含まれ、金融信用不安とか、最近では、米国住宅バブル破綻のリスクなども意識されています。
中国、インドの台頭―この2カ国は7-9%の経済成長を毎年続け、21世紀の新経済大国になるといわれていますが、両国とも、国民10億人以上の多くが金大好き人間です。文化のなかに金が定着していますので、いまや、インドはダントツで世界第一位の金消費大国。中国でも金自由化が急速に進んでいます。金価格が上がっても、国民所得が増えているので、金需要は急増しているのです。


オイルマネー原油高騰は、思わぬタナボタ収入を中東諸国にもたらしましたが、彼らも又、金には特別の愛着を持っています。スークと呼ばれる広場には金宝飾品でいっぱいの露天がひしめくお国柄です。さらに、ロシアも原油輸出大国として、巨額の外貨を稼いでいるので、その一部を金で運用する方針をプーチン自身が明言しています。なお、アルゼンチンも、オイルマネーではありませんが、数年前に国家の債務不履行に追い込まれたとき、金担保でおカネ借りて凌いだ経験をしたので、経済が好転した今、金の国家的備蓄を再開しています。
低金利―金は金利を生まないことが一番の欠点です。高金利の時代には人気は出ませんが、今は低金利が続いているので、銀行におカネ預けてもつまらないと感じるマネーが金市場に流入しています。米国では、ドル金利が4%まで上がっていますが、物価も4%を超えて上がっているので、結局、預金しても目減りする状況なのです。


ドル、ユーロへの不安―米経済は一見羽振りが良いのですが、実は台所は真っ赤な赤字です。政府、個人の抱える借金、そして外国からの借金が双子の赤字と呼ばれ、その返済をどうするのか心配されています。そこで、ドルの将来に不安を感じたマネーのユーロへの大移動が起こったのですが、そのユーロの先行きにEU憲法批准問題や失業問題で赤信号がともりました。そうなると、行き場を失ったおカネは世界中に徘徊を始めます。今、日本株を買い上げている主役の海外マネーもその一部。そして、その流れは、金にも波及しているのです。世界的金余り(過剰流動性)現象のなかで、分散投資が加速しています。
円安―国内金価格の急騰要因としては円安も見逃せません。けれども、90年代には円高で国内金価格が急落した歴史があるので、この為替要因はあまりアテにはなりません。


以上をまとめると、今、起こっている金価格急上昇は、円安を除いて、複数の、それも、根の深い長期的構造問題に根差しています。例えば、イラク戦争が終結すれば金上昇も終わるというような一過性の現象ではありません。海外で500ドル、国内で2000円をつけても、なお、先高感が根強いのはそのためです。

ただし、ここ数ヶ月の価格上昇のスピードは早すぎます。先物の買いが主導しているためですが、先物で買った投機家は必ず近い将来に(得しても損しても)売り戻します。そこで、少しでも価格が下がったときが、現物長期保有目的の個人投資家には買いのタイミングとなります。皆が下がったら買うという姿勢のときは、価格はそれほど下がらないものですが、それでも、為替が多少なりとも円高に振れるような局面があるものです。

なお、ポートフォリオで金は10%程度といわれるのは、あくまで、資産運用の主役は株、債券、預金であり、その(インフレなどによる)目減りを補う脇役を演じるのが金の役割だからです。

金は投機的でリスクが多いとよく言われますが、他の資産と組み合わせて持つと、資産全体のリスクを低くしてくれます。金を入れないポートフォリオのほうが、インフレに対して無防備でリスクも大きいと世界の投資家が感じ始めています。日本でも、年金の足しに、あるいは相続資産の価値保全など、キャピタルゲイン狙いとは異なる新たな金購入理由が増え始めているのです。金は財産を守る資産という考えが主流になりつつあることを忘れないでください。

(以上、再掲載内容)

1.の原油価格は今や90ドル台。 
2.では、とくに"金融信用不安、米国住宅バブル破綻のリスク"という経済有事が現実のものになりました。
3.のインドは今年、史上最高の金需要を記録する勢い。中国は金解禁が現在進行中です。
4.のオイルマネーは膨張し続け、その"ドル離れ"の受け皿としてユーロの次に金が浮上しています。
5.低金利についても、FRBが利下げに転じています。
6.ドル、ユーロへの不安については、ドルが対ユーロで最安値を更新中。ただユーロは買われています。
7.円安も最近では、円安、海外金高のダブルで上がる局面が増えていますが、円高に振れるケースもあり、アテにならないことも変わりません。
そして、"ここ数ヶ月の価格上昇のスピードは早すぎます。"と書いていますが、今回も全く同じ状況です。結局、短期に先物主導で急騰急落を繰り返しながら、これらの構造要因がボディーブローのようにジワジワ効いて価格水準が2年経った今、800ドル、3000円になりました。そして、1000ドル、4000円(為替120円)のときも、またまた同じことを書いているでしょう。

2007年