豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金利上昇で金は売りか買いか?
Page300

金利上昇で金は売りか買いか?

2007年6月7日

昨晩ECBが利上げ(4%)を発表。米国でも景気の底堅さを映し、利下げ観測は後退(ドルは5.25%)。グローバルな金利上昇がじわりとマーケットに効いている。利上げサイクルを野球にたとえれば、ドルは9回裏。延長戦があるか否かというところ。ユーロが6回表くらいかな。円は1回表裏ですでに1時間近くかかっているイメージ。

そこでグローバルに三極同時利上げモードが金価格に与える影響が気になるところだ。なんといっても金利を産まない金にとって金利上昇は天敵と言われてきたゆえに。

たしかに金利と金は逆相関というのが従来の"市況の法則"なのだが、ドルと金の逆相関同様に最近では当てはまらないケースも増えている。金利上昇=インフレ懸念台頭と解釈される場合がそれに当たる。

そもそも金融当局が利上げに踏み切るのはインフレ予防の意味が強いからだ。この解釈だと金には買い材料となる。金利上昇で消費者による宝飾需要は引っ込んでも、インフレヘッジとしての投資需要が増えるという読みである。マネーと商品の二面性を持つ金ならではの現象といえようか。

ポイントは、単なる名目金利の上下ではなく、物価上昇を差し引いた実質金利の動向である。実際、1980年当初の金価格急騰時には名目金利は二桁の高金利時代であったが、物価がそれ以上に上昇して実質金利はマイナスの局面も示現し金が買われた。

さらに、絶対的金利水準より主要国間の相対的金利差が重要な注目点になる。ユーロ金利が上昇してもドル金利が変わらなければ、ドルユーロの金利差が縮小して外為市場ではドル安=金市場では買いの解釈も成り立つからだ。

短期金利と長期金利の違いも見逃せない。ここにきてドル長期金利が再び5%に接近している。経済理論の上では長期金利上昇は投資家のインフレ期待度が高まることを意味するので金買いの材料にもなる。

以上、金利上昇=金買いのケースを述べたが、この解釈を取るか否かはマーケットのセンチメント次第のようだ。

なお、金利上昇がどうあっても金価格を押し下げるケースがある。それはスタグフレーション。市場関係者が一番ビビる言葉ではないだろうか。英語ではFワード(忌み言葉)に模してSワードなどと言われる。事実、1980年代に金価格が急騰から一転して長期下落傾向に転じた時が、正に高金利と景気後退が同時進行するSワードの世界であった。

最後に話を現在に引き戻すと、金市場が原油高、ETFの新規投資需要などをテコに長期的上昇トレンドにあるので、利上げが金売りの材料に使われるケースは、市場が利益確定売りの口実を求めているときに限定されるようだ。

2007年