豊島逸夫の手帖

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プーチンの院政

2007年10月11日

金市場において、ロシアはなにかと意識される存在である。旧ソ連時代の90年代初頭には"トイレットペーパー調達のための外貨調達目的"で大量の金売却を実行。推定2500トンあったモスクワの保有金のなかから2000トン近くを売却したとされる。それはその後に続く中央銀行金売却の走りでもあった。

それが今や、"いつ、どの程度ロシアが金を買うか"ということが市場では注目される時代になった。オイルマネー陣営の大国として、さらに国家的経済安全保障の観点からもドルばかり貯めこむわけにはいかない。ドル離れ中で、当然ユーロにシフトしているわけだが、その欧州とも英スパイ問題や天然ガス供給を政治的目的に使っているとの批判から関係がギクシャクしている。

そこで"無国籍通貨"としての金を購入する発想が生まれる。プーチン自身、インターファックス通信で金購入の可能性に言及している。90年代に2000トンの金を売って、急場を凌ぎ、まさに有事の金の有難味を体感した国ゆえ、国庫が潤沢になった今、その2000トンを補充しようと考えても全く不思議ではない。

ただし、ロシアの金買いなどという材料が出た瞬間に金価格は急騰するであろうから、うかつには手を出せないことも事実。そこで、話題のSWF(国家資金ファンド)などワンクッションかませて金を購入すれば、IMFへの公的金保有報告義務もない。あるいはBIS(国際決済銀行)が仲人となり、GG取引(政府間直接売買)という"場外取引"の可能性もある。

事実サウジアラビアのSAMAやアブダビ通貨庁などがかなり金を購入していることは公然の秘密みたいなもので、IMFの金保有統計には表れない。90年代にはベルギーの金売却の一部が、BIS経由の場外取引で中国に流れたという話もある。

さて、そのロシアのプーチンは来年大統領選挙を迎えるが、憲法上の制約で三期連続は不可。しかし国民の支持率は依然80%を超える。本人もまだまだやる気ムンムン。そこで今ささやかれているウルトラCが、プーチン"首相"就任という奇策(?)。先月指名したばかりのズブコフ首相を大統領に戴き、リモートコントロールの院政を敷くという発想だ。場合によっては2012年の大統領選挙に再登場という手もある。

体制としてはUnited Russia(ロシア連合)党を実質率い、候補者名簿のトップにプーチンの名前が出れば、憲法改正に必要な三分の二の多数を占めることも可能だ。そこで、(常々大統領三期は望まないと明言してきた手前)、独裁的大統領の地位を象徴的な存在に"格下げ"して、議会民主主義のイメージをより鮮明に打ち出せば、"民主化に逆行"という西側からの非難にも対抗できよう。

プーチン路線はカタチが変わっても継続されそうである。

2007年