2007年6月18日
中銀売却に織り込まれていなかった新材料が出現。先週、スイスが今後2年間で250トンの保有金を定期的かつ市場に影響を与えないように売却すると発表したのだ。理由は金価格上昇により、対外準備資産の中で金の比率が33%から42%へ上昇したため、これを元の比率に戻すというもの。
スイスが2000年から2005年にかけて1300トンの金を売却したことは周知の事実であるが、今回の売却計画は市場の誰もが予想していなかった。全く織り込まれていない材料ゆえ、マーケットの需給予想の立場からは、需要サイドのどこかに"織り込まれていない"250トンが見つからなければ、250トンの純供給増ということになる。第二次ワシントン協定にしても、これまでドイツが売らないということで100トンほど年間売却枠が未達になると観測されてきたが、これでどうやら年間500トンはフルに使われそうだ。
これで、ただでさえ目先軟調の展開であった金価格がさらに急落するかと思えば、逆に655ドルまで回復している。マーケットのセンチメントと言ってしまえばみもふたもないが、そういうことなのだ。
そもそも冷静に考えれば、地政学的リスクとか金融市場のシステミックリスクのヘッジのために準備資産としての金は必要である、という中央銀行としての認識は根強い。(このあたりの事情は6月12日付け本欄"中銀の資産運用行動"にて詳説した。)
そもそもワシントン協定というのも、年間売却枠ばかりが注目を集めているが、その第一条に"中央銀行は今後も金を重要な準備資産と考える"という基本精神を唱っていることが見落とされがちだ。
マーケットのセンチメントに話しを戻せば、金融市場全般を襲ったドル長期金利急騰ショックから癒えてきたところでもある。先週の最大イベント、金曜の米CPI発表も予想より低めのコア0.1%ということで落ち着いた。
日米欧三極同時利上げモードから高金利時代突入という可能性が薄まれば、金には他に7つの上がる理由もある。FRB利上げ利下げという材料は所詮中期材料にすぎない。そもそも年初はエコノミストの7割が利下げを見込んでいたのが、180度転換して今や7割が利上げと見込むという事実ひとつ取ってみても、今後3ヵ月後に中期見通しがどちらに振れているか分かったものではない。その間、金市場の長期的環境は不変なのだ。