豊島逸夫の手帖

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金利上昇で金は売りか買いか(パート2)

2007年6月13日

ドル長期金利が5.3%まで再び急上昇。これまで長期金利は上がらずと安心してきっていた債券市場なのだが、虚を突かれたのだろう。かなり激しい反応ぶりだ。

たしかに、これまでは、グリーンスパンさんが"conundrum"(推理小説に出てくるような"謎"という意味)と名づけたほどに、ドル短期金利は上昇しても長期金利は動かなかった。中国、インド、そして米国も順調に経済が成長する過程で、長期金利だけが取り残されたように無反応=上がらないというのはシャーロックホームズも解けない"謎"だったのだ。その結果、長期も短期も金利水準がほぼ同じどころか逆転していた(FFレート5.25%に対し10年物国債5%以下という、いわゆる逆イールド)。そのような異常な状態が正常化に向かっているとも理解できるだろう。

そもそも長期金利が上昇するケースを考えてみよう。

投資家のインフレ期待度が高まる(近い将来インフレが起こると思えば、今の金利水準で10年もおカネを固定する投資家はいないだろう)。
世界の経済が成長を続けて、長期の開発プロジェクトなどの資金需要が高まる。
財政赤字悪化(多くの投資家が10年後の国家財政に不安を持ち、10年ものの国債にはよほどの高利回りでなければ手を出さなくなる)。
こうして見ると、長期金利上昇の背景は、金価格上昇の理由に酷似していることが分かると思う。それでも金が売られがちなのは、金が金利を産まないから。
しかし、それは"物価が平行して上がらない"という条件付きである。長期金利も5%、物価上昇も5%ならば、実質的にはゼロ金利ということになるからだ。

以上の一般論を踏まえた上で、現在の金利上昇下における金価格動向を見てみよう。

年初はFRBの利下げ観測が台頭し、8月までに利下げを見込む市場関係者が過半数を占めるに至った。ところがここ数週間でマーケットのセンチメントは180度転換。過半数の人達が"利下げはなし、もう一段の利上げさえあり得る"という見通しに鞍替えした。米国マクロ経済データが予想より強めに出ていることに対する反応である。

そしてついに長期金利も上方への反応を開始した。しかし、米国経済の先行きに対する警戒感も払拭されない。注目の住宅関連指標も強弱まちまちというのが実態だ。要は指数のとり方次第でプラスにもマイナスにもなる。

そもそも、利下げか利上げかというような中期的見通しが、わずか3ヶ月間でかくも劇的に変わるということは、今後3ヶ月後の中期見通しがどう転ぶか分かったものではない。マーケットのセンチメントが変われば、長期金利上昇も先述した3つの背景のほうに焦点を移すかもしれない。そうなると金には買い材料と化す可能性も充分にある。ゆえに金利上昇=金売りと判断して舵を切るのは早計である。

たしかに、金上昇モメンタムにブレーキがかかったことは事実だが、これで停車するほどのインパクトでもない。金利上昇の行方は極めて不透明。ましてや長期的高金利時代突入というような情勢ではないので、現在の金利要因はあくまで中期的材料と見るべきであろう。いつも引用する東大の伊藤教授の"虫の目、魚の目、鳥の目"の観点で言うと、魚の目で見れば、潮は金利上昇に流れているが、この潮の流れはいつ逆転するかもしれぬ。鳥の目で見れば、金利以外の金価格を引き上げてきた"7つの理由"という構造要因に変化は見られないのだ。

2007年