豊島逸夫の手帖

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マネー御三家

2007年11月28日

オイルマネーは世界を巡る。昨日は、"砂漠に過剰流動性が溢れ、水と緑豊かな欧米の流動性が枯渇。それを結ぶスエズ運河はSWFか"と書いた5時間後に、アブダビ投資庁のシティー8000億円出資の報が東京市場をヒットした。
今朝の日経3面の見出し、"サブプライム影響拡大懸念 中東マネーで補完"が全てを物語る。

ちなみに、あまり報道されていないが、ドバイ首長国連邦所有のファンドが、運用資産の30%をアジアへ向け、ソニー株を大量購入(発行済み株式の5%以下という推定)するとの方針。

同じく過剰流動性溢れる中国では今週、サルコジ、トリシェなどEUの大物が続々北京に集結。EU中国サミットと名づけ、人民元本格切り上げを迫る。しかし、温家宝首相は頑と譲らず。ただし、EU中国間の貿易不均衡は理解するとのジェスチャーで、エアバス160機購入というお土産を持たせた。

筆者がヘェーと感じたことは、EUに学ぶ中国人留学生の数10万名、対して米国留学生は6万名という数字。中国の最大輸出国もEUである。フォアグラ生産で一財を成した中国人起業家も居るという。それも輸出用ではなく国内消費用なのだそうだ。そういえば、最近、北京の宴席の乾杯で供されるのは、ほとんど仏産の高級ワインだったことも思い出す。

その欧米サイドの巨大流動性といえば、年金基金。例のカルパースもドル安は続くと見て、これまでの国内運用重視の姿勢を転換。積極的に海外投資ポートフォリオを拡大すると発言。

米国脱出の米年金。米国進出のオイルマネーとチャイナマネー。筆者が"金買い御三家"と呼ぶ、この三大マネーは、国境を越え、入り乱れ運用の場を広げている。

さて、足元の金価格はこの2日間、NYが戻り売りモードに入り、一貫して売り込んでいる。右肩下がりのノコギリの目のような形で頭を叩かれ810ドルまで下落。原油も再度100ドル挑戦ならず。ドル円はドル高、円安に反転。NY株はダウン寸前の金融株にバーゲンハンターの買いが入り反騰。中東情勢ではイスラエルとパレスチナが7年ぶりの和平交渉再開を約す"アナポリス声明"で地政学的リスク緩む。以上、この24時間は教科書的な金下げの構図であった。

とはいえ、金融市場全体を見れば、NY証取のフロアに楽観論はない。FRBもECBも年越えの流動性確保に万全を期す異例の声明。金融不安が高まるなか、シカゴの債券先物フロアでは、12月11日FOMCの予測が乱れ飛ぶ。"これだけfear factor=恐怖心理が支配するマーケットゆえ、0.25%程度の利下げでは失望感。0.5%くらいやってくれないと、ガツンとこないぜ"。2004年にはFFレート1%だったのだから、来年3%台でも全く驚かないとも。

金価格も、そこまで織り込んでの800ドルなら筆者も納得する。ということは、その予測が裏切られたときの反動は大きいだろう。そのハザマに揺れる金市場の感覚を、日々の高ボラティリティーが雄弁に物語っている。

なお、NYのディーラーたちも、年末クリスマスが視野に入り、儲かっているところはもう敢えて喧嘩せずの構え。キビシイ成績のところとオプションデスクだけが、バタバタ最後のあがきをしている。はっきり言って、コンピューター トレーディング モデルを使っても、毎日サイコロ振って売り買い決めても結果は大して変わりない状況だ。決算期の縛りのない個人投資家はじっくり構えて安値拾いに徹しよう。納得できない価格水準で、無理に行動を起こす必要はない。

おっと、今、金ETF残高みたら前日722トンから741トンへ急増している。

2007年