豊島逸夫の手帖

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春の目覚め

2007年3月29日

ここのところ更新の間隔が空いてしまったが、春眠暁を覚えず、というわけではない。金市場の値動きに大きな変化はないからだ。

イランの英軍人勾留という地政学的リスクがまず原油価格を引き上げ、それが金価格にも波及している構造である。この問題は、イランがこういう危ない瀬戸際外交を本気で続けるか否かということに尽きる。英軍人解放となれば、一気に売られる可能性もあるが、金市場には史上最高値の時代のテヘラン米国大使館人質占拠事件の連想がいまだに消えない。やはり、イランという要因に金市場はことのほか敏感なのだ。

他の要因としては、前回も言及したが、米景気後退の兆しがテーマとなり、マクロ的に影響が広がっている。昨晩はバーナンキFRB議長がインフレ警戒モードを強調しつつ、景気に対しても警戒モードを崩さなかった。

彼の話を聞いていると、これってスタグフレーション懸念なのかと思う。原油高=インフレ懸念、サブプライム=景気後退懸念の同時進行、すなわち物価上昇下の経済成長鈍化というシナリオである。以上は中長期的な話だが、短期的には利下げをはやして買われてきた株と債券は売りの展開。債券に代わって金が"質への逃避"マネーの受け皿というNY発コメント。株安、金安になると"金の輝き薄れる"となり、株安、金高になると"金の輝き復活"となる。金の輝きが数週間でそれほど変わるものかね、というのが筆者の素朴な反応。まぁ、最近はセオリー通りに動くことが珍しくなった金価格だが、今回は結局、前述の地政学的要因が効いているのだろう。

上海発の世界同時株安から、はや一ヶ月。今回はマグニチュードも余震もそれほどではなかったようだ。足元では世界的過剰流動性の動きも模様眺めに徹しているが、4月になれば、ときめく春の足音に誘われ、じっとしていられなくなるだろう。

2007年