豊島逸夫の手帖

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忍び寄る米経済景気後退の影

2007年12月4日

11月29日付けで書いた"筆者の気になること=米経済リセッションの可能性"は、NY市場関係者がいま考えたくもなく、口にしたくもない忌み言葉という意味で、R-wordなどと隠語で語られる。原油高止まりの時に、住宅不況にでもなれば、景気後退と物価上昇という最悪の組み合わせになってしまう。いわゆるスタグフレーションという現象だ。しかも、もし、ドルの信認が加速度的に薄れれば、外国人投資家のドル資金引き揚げを防ぐために、ドル金利を引き上げざるを得なくなる。原油高、サブプライム、ドル不安の同時進行という症状をすべて緩和できる政策的療法は無い。

スタグフレーションになれば、それにより潤う投資セクターは無い。株も債券も金も全員負けのシナリオである。世界経済の縮小均衡が待っている。(毎月のお小遣いつき大型投信も債券価格下落、為替差損のダブルパンチで元本が毀損しますよ。)

今週号のロンドンエコノミスト誌は、カバー記事でドル暴落の可能性を論じている。いまやドルは、サブプライム カレンシー(通貨)。国の経済はサブプライム債権のごとく毀損、劣化している。巨額のサブプライム関連債権を抱えたシティーグループはアブダビ投資庁から11%配当という条件を飲み、転換社債による資金投入を甘んじて受ける羽目になった。ということは、サブプライム通貨=ドルも、ジャンク債なみの金利を甘んじて受けねばならぬ。11%出さねば、オイルマネーが助け舟を出してくれない。

足元では12月11日のFOMC利下げ幅の話題が賑やかだが、ヒョッとして来年は利上げに転じざるを得ないシナリオもあるのだ。キャプテン バーナンキの置かれた困難な状況には心から同情する。頑張って欲しい。原油高、サブプライム、ドル安の全てを解決する妙薬はないのだから、現実的には、政策の優先順位をつけて、その三つの中の最低一つには目をつぶるしか方法はないだろう。大統領選挙を考えれば、低所得者ローン救済が、やはり優先順位は高いだろうね。昨晩もポールセン財務長官のサブプライム救済策として、11月29日に書いたように"変動金利ローンの金利低位凍結"が浮上してきた。大手住宅金融会社カントリーワイドなどには朗報で株も反騰している。しかし、周囲は至って懐疑的。凍結措置を受けられる人と受けられない人をどういう基準で足切りするのか。故意に返済を滞らせれば優遇措置を受けられることにもなりかねない。身の丈以上のマイホームを建てた人たちは救済され、慎ましいマイホームに甘んじた人は正直者が馬鹿を見る結果にもなる。

そもそも、この種の救済策は、バンドエイドで傷口をふさぐだけである。マーケットの見方も厳しい。2008年のリスク要因として、今後もフォローしてゆきたい。

2007年