2007年11月5日
NY市場、金曜日の午後になって一気に790ドル台から807ドルまで突き上げた。週末を控え、800ドルのコールオプションを売ってきた連中がストップロスの買いに走ったのである。
午前中には10月の米雇用統計16万人増という発表もあり、GDP3.9%成長も考慮すれば、米景気好調=ドル買い=金売りが生じても全く不思議ではない状況であったが、実際のマーケットはセオリー通りには動かず。逆にドルは対ユーロで最安値更新。
株式市場の反応が、金が買いに傾いた本当の理由を強く示唆している。NYのフロアーでfear factor(恐怖心理)が支配し、金融株が下げ止まらなかったという現象だ。既に昨日日曜日の一般報道でシティーのプリンス会長兼CEO辞任のニュースが報ぜられているが、NY時間金曜日のフロアーでは、"今週末にシティーの緊急取締役会が開かれるらしい。プリンス氏は、日曜に予定されているワシントンでの日米経済会議出席を急遽キャンセルした。"との噂がしきりに飛び交っていた。
"シティーもメリルも未だ隠れ損失があるのではないか"と株式市場は疑心暗鬼。サブプライム債権の本当の時価を当の銀行でさえ特定できず、監査法人が最終的な額を確認できるのは年末になるとの見方が大勢。同問題の全容未だ見えない以上、金融不安要因は強まるばかり。このfear factorこそが、金価格決定要因とされる"不安係数"そのものである。ちなみに、このfear factorは債券市場の米国債利回り下落(10年物4.32%)というカタチでも顕在化している。
いわゆる"質への逃避"現象だが、最近では、サブプライム関連の複雑化したデリバティブの破綻により分かりやすい商品への傾斜が強まっているおり、"シンプルな透明性への逃避"現象とも言われる。
金の世界で言えば、金現物を実際に購入し、カストディアン金庫に保有するだけのシンプルな構造の金ETFが買われる例も同じ流れである。ウルトラパッシブとも言えようか。(ただし、大証の商品は金現物ではなく金リンク債という分かりにくい債券を購入しているので事実上は債券ETFというペーパーゴールドである。)
なお、サブプライム関連の新たな火種としては、債券に対する保険を扱う会社が火達磨状態になり、MBIA、AMBACなどの同業種銘柄の株価が暴落していること。Monolineと呼ばれるこれらの保険会社は、格付けの低い地方公共団体発行の債券に対する保険が主たる業務。地方=municipalの略語でmuni市場と言われる。その規模は40兆円を超える。元々、保険なしでは買い手がつかない債券なのだ。正に、リスクの連鎖である。
かくして800ドルを突破した金価格だが、先週を振り返っても調整らしい調整は784ドル止りであった。ドル安、原油高、信用リスクの三大要因は構造的問題ゆえ一過性ではない。
足元の急騰というより暴騰ぶりは 明らかにバブルの匂いがする。今月はヘッジファンドの決算期ゆえ、NY株が大きく下げたときが、金の調整売りのキッカケにもなろう。お馴染み、株の損を金の益で補填する決算対策売りである。しかし、その調整局面も底は浅そうだ。それほどに、新規参入相次ぐ金市場である。
この点については、今日発売のエコノミスト誌に2ページほど"1000ドルも視野、長期の上昇構造"という刺激的見出しつけられた拙稿を参照してください。明日(火曜日)は、NHKゆうどきネットワークで"なぜ、金が高騰?"という特集あり。8日(木)には日経CNBCに午後5時から生出演(再放送同8時)。11日にはWGC単独主催で京都にて"800ドル これからどうなる"というセミナー開催。さらに、お約束どおり東京で第二弾のWGCセミナーを11月18日に六本木ヒルズで急遽開催することにしました。前回は定員200名のところ500名近い応募あり、今回は定員300名の会場です。日経マネーディジタルのホームページで本日月曜日中に先行発表したうえで、7日(火)の日経夕刊にて一般告知します。
セミナーでは特に"800ドル これからどうなる"について詳しく語ります。