豊島逸夫の手帖

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メリルショックの後で

2007年10月26日

NYからシカゴへ。昨晩のマネーの流れである。NYSE(NY証券取引所)は連日、日中、ダウが200ポイント前後乱高下する"ジェットコースター"相場。ここは、なにも無理してジェットコースターに乗ることもない、とばかりに、シカゴの債券先物市場にマネーが逃げ込んでいる。米国債への質への逃避現象である。元々NYに対して競争心の強いシカゴゆえ(NYのライバルはボストンレッドソックスだけではないのだ)、"NYのマネーが大挙して来やがる"というフロアートレーダーの言葉が印象的だった。

それもこれも、来週30日、31日に控えたFOMCで利下げありやなしや、という大きな材料が控えているから。それまでは、うっかり手出しできない。とりあえず、米国債にでもおカネを"パーキング"しておこうという流れだ。

メリルショックは、そのFOMCでの0.25%追加利下げ観測を強めたので、金価格は昨晩も続騰。再び770ドル接近中だ。ライス女史による対イラン追加的制裁発表も原油市場経由で効いている。

0.25%の再利下げがマーケットに織り込まれつつあるということは、もし再利下げ無しとなれば、金価格の反落は必定。逆に利下げ幅がまたもや0.5%などとなれば、それこそ800ドルへ向けてオーバーシュートしてしまう。それほどに、この0.25%の差は大きな意味を持つと言える。

さて、今週は筆者の盟友ポール ウオーカー(GFMS社CEO)と連日のセミナー行脚。今日は大阪。今回の彼のプレゼンテーションで筆者が印象に残ったことは、彼の800ドル説ではない。(この程度の数字は今や無難な予測の部類に入る)。それは、今後の供給サイドの見方である。

すでに21世紀に入ってから、金価格の長期上昇トレンドにもかかわらず、年間新産金量は微減傾向にあるのだが、今後10年間も、それほど増えずほとんどフラットというのがGFMS社の見立て。

それから、需要サイドで、アジア中東の現物購入者の購入姿勢の変化。従来はバーゲンハンターと言われ、じっくり安値拾いに徹していたが、この2年ほどは高値慣れが早くなってきた。もうそれほど金価格が下がる時代ではないと見極めをつけた、という見立てだ。ゆえに、少し下がったところで間髪入れずに現物の買いを入れる。700ドルという水準も早くもそろそろ受け入れ始めている。(昔であれば、高値慣れに一年はかかったであろう)。その中で唯一の例外が日本で、今回の上げに全く乗れていないね、と苦笑していた。やっぱり日本人は慎重なのだ。相場の急展開についてゆくことは苦手だ。だからこそコツコツ積立が向いている。

純金積立という商品がヒットしているのは日本だけ、という事実も肯ける。米国でもドイツでも香港でも純金積立という商品は売れずに消えていった。国民性というDNAにあった商品選択ということであろう。

2007年