豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. グリーンスパンのスタグフレーション発言
Page398

グリーンスパンのスタグフレーション発言

2007年12月18日

こともあろうに、あの金融の神様が、米国の日曜朝のTV討論番組(ABCのTHis Week)で、"スタグフレーションの初期症状あり"と、禁句S-wordを口にしてしまった。物価高騰に景気後退の組み合わせなど誰も考えたくもないし、勝ち組の無いシナリオ。

9月18日の本欄に書いたように、金市場下落の第一のリスク要因だ。12月4日にも書いたが、金のみならず株、債券も全員負け(案の定、昨晩のNY株は全てのセクターに売り)。世界経済の縮小均衡が待っているだけ。個人レベルでは、寿司屋へ行ってもトロは我慢して赤味だけ、そもそも外食は控える、というような生活水準のダウングレード(格下げ)で耐えるのみ。

正直、グリーンスパンさんから、この言葉を聞きたくはなかったなぁ...。さらに、R-wordも飛び出した。リセッション(景気後退)の確率50%近くだと。米企業体質も消費マインドも根強いから"50%は上回らず"と慰めてはくれたけど。

サブプライムにも言及し、ローン金利凍結策を批判。金利をいじることは自由経済市場の構造をいじることゆえ、問題解決を長引かせる。ここは、本当に困っている低所得者にキャッシュ援助したほうが得策(豪商の千両箱を頂き庶民にばら撒くネズミ小僧作戦か...)。同時に滞留している不良資産は叩き売らせ、人為的なセリング(売りの)クライマックスを引き起こしたうえで、買収ファンドなどのバーゲンハンターに安値で拾わせればよい。"人間の欲望ある限りバブルなど防げるはずもないから、マーケットにやるだけやらせて、後始末を中央銀行がやればよい"という持論に通じる。根っからのフリーマーケット論者なのだね。小気味いいほどに議論は冴えている。

さて、昨晩のもうひとつの話題。地方公共機関のサブプライム汚染地域が、12月10日付けで詳述したフロリダから、オーストラリア、ノルウエーにまで拡大したのだ。オーストラリアの郡や町単位の基金、慈善基金、公共病院の資金運用までがCDOを抱えて行き詰まっているとの報道。某村(人口3500人)では10億円ほどの資金の7割をCDOに投じ、時価が84%下落(!)したという。販売したのはレーマン。訴訟も辞さずと詰め寄られ、どうも損失補てんしたらしい。さらに、ノルウエーでは4つの町が仕組み債購入で多額の損失を蒙ったとの報道も。こちらの販売者はシティーグループ。

個々の額は大したことないが、こんな話が世界中に勃発しているわけで、正にリスクの分散のはずがリスクのばら撒きになって、収拾がつかなくなってしまったのだね。いやはや...。

世界の個人投資家の疑心暗鬼は、証券化商品全体に波及しつつある。以前にも触れたが"back to simplicity"、シンプルで分かりやすい商品への回帰現象は間違いなく加速しているようだ。金商法の下では、説明しやすい商品が売りやすいしね。単純な商品はギョーカイの儲けは少ない、ということは個人投資家には歓迎すべき現象と言える。こういう風に書くと、非営利だからそんな悠長なこと書けるのだとギョーカイ内では言われそうだけど。

投資家の心の傷は当分癒えず、実物資産への回帰現象もまだ始まったばかり。金関連商品でもデリバティブとかファンドよりドルコスト平均法の純金積立、ウルトラパッシブのETFといったシンプルな商品が選好されるトレンドだと感じる。

2007年