豊島逸夫の手帖

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迷心寂乱 悟無好悪

2007年10月15日

週末、関西出張のおり、京都の相国寺の秋季特別拝観へ。静寂の中の2時間で 心に残った禅宗の言葉が、本日の見出し。

心 迷へバ 寂シク乱レ
悟レバ 好悪(コウオ)無シ

日々マーケットの喧騒のなかで、短期的に、750ドルだ3000円だと心迷えば、ひとり惑う。でも、長期の視点を持ち、マーケットなどとはこんなものよ、と悟れば、短期で上がる下がるの一喜一憂もない。そうは言っても、悟れないのが人間の性なのだけどね。

30年、相場と付き合ってきて、つくづく投資というのは己の欲との戦いであると感じる。"円天"などの例を見ると、騙す方も騙される方もレベルの低さにあきれるばかり。まさに迷心寂乱の例であろう。

迷心寂乱に取りつかれた投資家の頭の中には"儲け"の追求しかない。リスクから身を守ることは視野にない。多くの不勉強な投資家たちが、剣道着を着けずに竹刀を振るうような蛮行に走っている。あげくに道場主の指導不十分との処分になる。

話はいきなりNYの専門的な話になり恐縮だが、史上最高値更新を続けるNY株式市場で、株のプットオプションとコールオプションのスプレッド(差)が7.6%に拡大中だ。8月17日の乱高下のピークには8.53%に達した。平均は5.9%程度の数字である。

これが意味するところは、株を買っている機関投資家がヘッジとしてプットオプションも購入しているということだ。株価が下落しても一定の価格で売り処分できる権利を購入しているわけだ。今の株高を本当には信用していない証拠でもある。その意味では、株も買うが同時に金も買っておくというヘッジと同様の発想だ。広義では金融資産から実物資産への部分的回帰現象とも言える。

マクロ的背景としては、週末のG-7でもサブプライム関連でリスク評価に問題があったと指摘された。前回も述べたが repricing of risk(リスクの再評価)が進行中であり、"不安係数"で動く金価格の上昇幅がリスクプレミアムの拡大幅の代表変数としてウオッチされているのだ。

と、ここまで偉そうに書いてきたけど、筆者とて未だに迷心寂乱から脱却できずに、相国寺の敷地を出た途端に、さて何か美味しい京都料理をなどと考え始めている。

まぁ、筆者は少なくも己の愚かさを認識しているから、自分で金を買うときはいまだに純金積立と決めている。毎月定額を支払い続けるだけ。あとは余計なことは考えない。これが凡人に出来るせめてもの悟無好悪である。

次回のWGC単独主催セミナー第二弾は相国寺の講堂で、第一部、老師さまの講話、第二部、迷える子羊たちとの対話、第三部、写経とでもしようかね...。政府は"貯蓄から投資へ"を提唱するが、一番の問題は投資家の心の中にあるのだよ。

2007年