豊島逸夫の手帖

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福袋のリスク

2007年6月27日

サブプライム問題再燃が金融市場全体を蓋っている。この問題、個人投資家には分かりにくいテーマだ。セミナーでも、聴衆の目が泳いでいるのが分かる。3月22日付け本欄では以下のように説明した。

もう一つのテーマがサブプライム。この言葉を2月9日付け本欄"米住宅市場異変の兆し"で最初に取り上げたときには、サブプライム??また、豊島が、訳の分からない英語を振り回しているなという程度の反応だったが、いまや、"みのもんたさん"が引用するほどに一般化してきた。あの時、例に出したニューセンチュリーというサブプライム大手は、いまや上場廃止へ。こうなると陳腐化してマーケットにも"織込み済み"となる。この問題を先読みすれば、ポイントは二つ。

―サブプライム債権を切り離して、資産担保証券(CDO)のカタチで投資家に販売していたスキームに波及する可能性。信用度の低い借り手に対するローンは高金利。ということは貸す側からみれば高リターンの投資ということになるので、これを多くの大手金融機関がミックス定食みたいに色々揃えてハイリターン商品として販売してきたわけだ。そのミックスの中身を把握せずに投資家は高リターンにひかれて購入してきた。実態を把握していたら、たぶん怖くて買えなかっただろうけど。CDO=collaterized debtobligationというキーワードもややこしい英語だけれど、今後は注目しよう。住宅市場不安が負の資産効果を通じて米個人消費に悪影響を与える可能性。マーケットとしてはこれが一番"やばい"。誰だって自己保有の不動産が減価すれば消費意欲もなえる。

(引用終わり)

そして前回、6月22日付け本欄で取り上げたベアースターンズの問題に発展してきた。この問題も筆者のNY情報源の友人たちは先週水曜日頃から騒いでいたが、日本のメディアは消えた年金問題と偽装コロッケ関連報道ばかりであった。

先の引用では、CDOの問題点を"ミックス定食"の中身を把握していないことと説明したが、これはなにやら牛肉コロッケ問題を連想させる。牛、豚、鶏、羊、鴨とミックスされたコロッケを牛肉という認識で消費者が購入する。CDOは、何千件もの信用度の低い借り手の住宅ローンを束ねたハイリターン商品を投資家が購入する。そこで多少の貸し倒れが出たところで、そう問題はなかろう。そのうえで、対価としての高利回りを享受してきたわけだ。断っておくが、この商品は偽装ではない。しかし、何千ものローン債権の中身を把握していたかということになると、これは別問題。福袋みたいなものだ。買い手は中身を把握せずに期待感で買う。

コロッケの問題は消費期限過ぎた肉だが、この商品では返済期日が来ても返済できないローン物件が多く混入していた。でも老舗のデパートならぬ信用度の高い金融機関が販売元だから、という安心感があったと思う。中身を把握できない商品という点では冷凍コロッケもCDOも同じ。

この種の問題はCDOに限らない。ギョーカイで言うところのストラクチャー物、いわゆる仕組み債というジャンルの投資商品には、ケーマンアイランドなどに籍をおく複数の金融機関を経由しているタイプが多い。ここで驚くべきことは、それを一般個人投資家に販売している金融機関の商品企画担当者にその川上の胴元について聞いてみても把握していないケースがあるのだ。

冷凍コロッケを販売していた大手スーパーは、むろん品質検査しているのだが、まさか牛肉であるか否かまでは"当然のこと"として検査項目には入っていなかったと言う。いまや中味のDNA調査依頼が殺到している。

金融商品にも、これからはより厳しい"品質表示"が、"個人投資家にも分かりやすい"言葉で開示されるべきだろう。

その点、金ETFなどは至って簡単明瞭である。裏づけとなる金地金を預かるカストディアン金融機関の金庫の写真から、そこに保管されている全ての金地金のバーナンバーまでサイト上に公開されている。余計な"仕組み"など無い。付加価値も付かないから販売機関の立場では儲からない。顧客サイドから見て分かりやすい商品は、販売側から見ると儲からない商品である。これが金融商品販売第一線の実情なのだ。

2007年