豊島逸夫の手帖

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痛み止めの応急処置

2007年8月21日

FRBが緊急利下げに踏み切った。公定歩合が6.25%から5.75%へ。FFレートは5.25%のまま据え置き。

この意味するところは、キャッシュショート(現金不足)を起こした銀行が"最後の貸し手"としてのFRBへ駆け込むときのペナルティー金利を0.5%下げてあげましょう。でも、銀行間で資金を融通しあうときの金利は今までどおりですよ、ということ。いわば、急性患者の痛み止め処置であり、これからじっくり体中を精密検査して今後の治療方針を決めましょう、という担当医(ドクター バーナンキ)のご託宣なのだ。

患者の体内にはサブプライム型の新種ウイルスが至る所に拡がってしまった。これをMRIでひとつひとつチェックして、悪性のものには放射線をかけてゆく。時間のかかる作業である。そして、患者の周りの健康な人たちまで、自分が新種ウイルスに侵されていないか心配になっている。

問題はサブプライムからデリバティブ全体への不信感に拡大しているのだ。さらに、患者の血液を検査する機関がグルになっていたのでは、という疑惑も持ち上がってきた。債券の質を精査して格付けする機関への不信感である。仕組み債と呼ばれるデリバティブの格付け手数料は、通常の債券の3倍なので、格付け機関には"おいしい"仕事である。そもそも、格付け機関が精査する債券の発行体から手数料収入を得るという構造、しかも事業の多様化で発行体へのコンサルティング業務も請け負うという馴れ合い体質が問題になっている。"おたくの債券の評価は低いから、高くなる方法をお教えしましょう"という商法と勘ぐられてもしょうがないだろう。

投資家の立場から見れば、証券化された金融商品を買うときに、その商品を組成、販売する業者の良心を信じるしかない。性善説を採れればいいのだが、今回の騒動を見る限りでは、性悪説を前提とせざるを得ないようだ。

2007年