豊島逸夫の手帖

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身につまされる話

2007年7月13日

金価格は665ドルまで続伸。先物市場では空売りの手仕舞い買い。金ETFは602トンまで増加。弱気派が撤退し、下値に安心感を持った長期保有投資家が新規買いを入れ始めたことを示唆する数字だ。

商品市場の中では、原油から金へ投機マネーがそろそろシフトする兆しが見える。NY株がサブプライム懸念にこだわりつつも史上最高値を更新する中での金高。株も買うけど、ちょっと不安もあるから、リスクシナリオを考えて金も買っておくという発想がイメージとして浮かぶ。

サブプライム問題もここ数日大々的に報じられるに及び、材料としては陳腐化の感もあり。社説に取り上げられたら、相場要因としては成熟期と見てよい。
ただし、今回の騒動で、仕組み債などデリバティブの胴元の金融機関はレピュテーションリスクを思い知らされた。複雑な商品の中身を完全に把握せず(できない)販売元のネームバリューで買ってきた投資家たちの間に警戒感が生じてきたのだ。たとえれば老舗のデパートが売るのだから間違いはあるまいと福袋を買ったのだが、その老舗の評判(レピュテーション)が揺らいできたということだろう。

投資の世界に話を戻せば、リスクに対する感覚が麻痺していたという反省が生じている。そもそも社債と米国債の利回りの差[スプレッド]が異常に縮小するという現象じたいが普通ではなかった。そのスプレッドが開いてきたことはリスク感覚が戻り正常化しつつあることを示している。まともな感覚が戻った投資家の次の行動は、ポートフォリオのリスクの再評価。やばそうなものからは撤退する。これはマーケット全体で見れば流動性の縮小を招く。顧客(投資家)のリスクに対する楽観論の上に成り立っていたヘッジファンドの破たんなどが連鎖現象として起きる。

ここまで先読みすれば、予想より高めにでた小売販売高をはやしたNY株史上最高値更新に浮かれてはいられなくなるだろう。ベアースターンズ社傘下のサブプライムに特化したヘッジファンドの危機は、システミックリスクを招来するような規模ではない。しかし、そこから生じた"教訓"はアミーバのごとくマーケットの隅々に浸透しつつある。多くの市場関係者にとって"身につまされる話""思い当たる節がある話"なのだ。

2007年