豊島逸夫の手帖

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FRB追加利下げ織り込み785ドルへ急騰

2007年10月29日

今週の目玉、10月30、31日開催のFOMCを前に金市場が動いた。シカゴの債券先物市場のフロアーでは、メリルショックの後で"追加的利下げ"は織り込み済み。問題は0.25%か0.5%かの話になっている。

金市場も、いち早くこれを織り込んで17ドルの急騰。800ドルも視野に入ってきた。とにかく動きが早い。高値警戒感が高まる中で760ドルから785ドルまで、ほぼ一直線の上げだ。

さて、追加的利下げの金市場に与える影響をまとめておこう。この利下げの目的はサブプライム危機救済にある。政策優先順位としては、原油90ドルで加速するインフレ懸念への予防措置は二の次になった。(こちらを優先させれば当然"利上げ"になるはずだから)。そこで、インフレ懸念加速という金買い材料その一となる。

その二は、金利を産まない金にとっての唯一とも言える潜在的売り材料=利上げが後退し、価格のアタマを抑える重しが取れたこと。これでディーラーとしてはショート(カラ売り)がとても出来る状態ではなくなった。買い手には下値リスク限定の安心感が広がり、NY先物買い残高は過去最大の水準でさらに膨らむ一方。その割に買いの過熱感が頂点に達したというbuying climaxの実感がまだ出てこない。

その三は、ドル金利下落ということで外為市場ではドルが日本円以外の通貨に対しては歴史的安値を更新中。普段 自国通貨ドルの相場に対して全く鈍感である米国民でさえ、ドル安の是非を巡って議論するようになった。(日本では円キャリーのせいでドル安がそれほど実感できないが...)。結果、ドルの代替通貨として金が買われるというおきまりのパターンが加速している。EUでは、あまりのユーロ高に輸出産業から悲鳴があがり、"人民元や円が対ドルで安く抑えられているから、ドル売りのエネルギーが全部我々の通貨に向けられているのだ"という被害者意識が強まっている。このままユーロ高が放置されるとも思えず、今度はユーロの代替通貨として金が買われるという構造に変化してきている。

なお、以上の追加利下げ関連以外にも、トルコ、イラクの新たな中東の火種という地政学的要因が原油市場経由で効いている。その原油高と互いに刺激しあって金価格も上昇が加速している面も否定できない。相乗効果でコモディティー(商品)分野への新たな投資、投機両マネーの新規参入が相次いでいる。こんな高価格水準でも、金ETF残高は減るどころか増加が継続し全体では800トンの大台へ接近。来年早々には1000トンを記録しそう。これには筆者も正直驚いている。金を新鮮な目で新たな分散手段として見る年金などは、年間ポートフォリオ計画に盛り込むや、粛々と"純金積立"方式で機械的に目標量を買い続けるだけなのだ。

最後に、重要なことは、サブプライムの残した投資家の"心の傷"。信用収縮そのものは中央銀行の緊急資金供給で凌げる。冠動脈の痙攣収縮で狭心症が発症したようなもので、ニトロを中銀が投薬すれば症状は治まる。しかし、サブプライム関連の複雑な金融商品で損害を蒙った投資家の心の傷は、決して忘れられず記憶に刻まれる。そこで実物資産への長期的回帰現象が芽生える。

さらに、ヘッジファンドなどの過剰流動性がリスク回避指向を強めているが、これは一過性の現象に過ぎない。冠動脈の痙攣で血液の流れは鈍くなったが、別に出血で血液(マーケットでいえば流動性)の絶対量が失われたわけではないのだ。そもそも彼らはリスク取ってリターン上げてナンボの商売である。すで金市場には8月に金の益出し売りをした連中が、三々五々カムバックしつつある。むろんロング(買い持ち)ポジションで。

2007年