豊島逸夫の手帖

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上海がクシャミすると金市場は?

2007年3月1日

嵐の翌日のNY株式市場は落ち着きを取り戻した。"健全な調整売り。史上最高値更新で楽観的に傾きすぎた投資家に警告的メッセージ"という受け止め方が支配的。バーナンキさんの冷静な発言も好感された。"米経済に基本的変化なし。サブプライム問題も住宅金融全体に波及しないだろう。市場流動性も不足なし。"グリーンスパンさんの米経済景気後退発言も、投資家の楽観論を戒めた意味と解釈されてきた。なお、FRBのスタンスに関して、マーケットは54%の確率で利下げを見込んでいる。

ただ、怖いのは、取引所のシステム不安。3分間でダウ指数が200ポイント下げた現象の原因が、ダウジョーンズ社の計算遅れと取引所(NYSE)の注文伝達キャパオーバーと確認されたからだ。"怖い"のは、電光掲示が瞬間的に200ポイントも下げると、間髪を入れずコンピュータープログラム売買が反応して作動すること。先物価格とのかいりが瞬時に膨大な裁定取引を生むのだ。そして、次の瞬間に電光掲示が元の数字に戻る。当然フロアーはパニックになる。今回の経験は今後への強烈な教訓となろう。

さて、金市場に関しては、中国バブル破綻の可能性の影響が注目されている。この問題は、筆者も昨年の日経マネーゴールドセミナーにて、"金価格が下がるシナリオ2―好調中国経済の減速はあるのか"として詳述したところでもある。同誌1月号115ページに載っている内容をまとめるとこうなる。(バックナンバーお持ちの読者はぜひ読み返していただきたい)。

市場が危惧するのは、10%以上で過熱気味の経済成長率へのブレーキのかけ方にある。全人代が唱える7%台までいきなり引き締めると高速道路から一般道路に降りたときに経験する停止したかのような錯覚に陥る。
一過性のショックはあろう。
ただ、これが大事なことなのだが、それによって中国経済が沈みっぱなしになることはあり得ないと自信を持って言える。
短期と長期の話を分けて考える必要があろう。"中国株バブル"は誰が見ても危うい。ここ4-5年、他市場に比し出遅れ感があっただけに、その反動で昨年来の上げ幅もハンパではなかった。それゆえ、オーバーシュートに対する、これも"健全な調整"とも言えよう。
そこで、金市場内の反応だが、これまで中国成長ストーリーをはやして投機的に買い上げてきたファンドは売り手仕舞いに走るだろう。これが短期的な話。しかし、13億人の金大好き人間の集団である同国において、自由化され拡大する金市場が、この程度のことで失速する可能性は極めて低い。
数千年の歴史の中で、貨幣単位もころころ変わる歴史を経てきた同国人民にとっては、人民元という通貨など未だ新参者。金こそ究極の価値という金選好度の高い国で、今、貴金属店のショーウインドーに溢れる純金(十二支)子豚ちゃんを見ると、株式急落程度でこの国の文化が変わるとは、とても思えないのだ。
昨日、中国人の同僚と電話で話した時、彼は 心なしか得意げであった。"いまや上海がクシャミすればNYが風邪ひく時代になったのさ"。そのクシャミは どうやら季節的な花粉性の症状で、深刻な肺炎ではなさそうだ。

最後に足元の相場だが、670ドル近辺にある。690ドルから急落したとはいえ、年初から見れば70ドルの上昇だ。チャイナショック直前から調整局面入りのムード強まった矢先であった。従って これも"健全な調整"と言えよう。需給ファンダメンタルズを見れば、650ドル水準まではアジア中東が買い上げてくることが確認されている。しかし、それ以上の水準となると、ファンダメンタルズからかいりした世界である。金ETF残高も昨日6トン減少している。

円キャリー巻き戻しの動きも、円を借りて金を買ってきた連中が、金の売り手仕舞いに走るきっかけになりそう。しかし、これも短期の話。マーケットの潮流として、ドル高からドル安への転換となれば、ドルの代替通貨としての本来の金買い要因が浮上する。

総じて、700ドルという通過点が視野に入っているが、そこに到着までには未だ足固めが必要であろう。

2007年