豊島逸夫の手帖

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金ETFの定義とは?

2007年7月20日

今朝のNY発CNBCでNYのETF専門家氏が金ETFについてレクチャーしていた。

まず画面に金地金の山の写真が出て、"金ETFとは基本的に金地金に投資する商品です。保管などの面倒な手続きが不要で、上場されているから流動性も豊富で売買も簡単です。ステートストリートのGLDがダントツのシェアー。ついでバークレーズのi shares もあります。"

それを見て思ったこと。

日本では規制の谷間に独特の隙間商品が一時期出回ることがある。10年以上前だが、金投資口座という商品が証券会社の店頭で幅広く販売されたことを思い出す。あの商品は、銀行預金を扱えない証券会社にとっては貴重な確定利息ものであった。仕組みは金価格のコンタンゴ(先物価格のスポット価格に対するプレミアム)を利用し、金をスポットで買い、同時に先物で売ることにより、現先スプレッドを利息の代替として享受するというもの。本来の金投資ではなく、金価格を利用したペーパー商品であった。

そして、今回の金価格リンク債にリンクした金価格連動ETFと称する商品。満期時の金価格で償還される債券に投資する仕組みである。金そのものに投資するわけではない。いわゆるペーパーゴールドである。どうして、こういうややっこしい商品が開発されたかといえば、現行の投資信託法では、運用対象資産が債券または不動産に限定され、金などの"商品"が入っていないという日本国内の規制があるからだ。(法律設定時に金現物で運用する投資信託など全く想像できなかったわけだ)。マーケットの流れに制度がついてゆけないという 日本ではお馴染みのストーリーである。

金の資産クラスとしての最大の特徴は、稀少天然資源として独自の価値を持つこと。金は、"誰の債務でもない"と言われるように、金融システム内のイベントリスクから独立した価値ゆえに、ポートフォリオ全体のリスクヘッジ効果を持つことだ。債券のデフォルトなどが生じると"質への逃避"マネーが金市場に流入する。アルゼンチン国債の債務不履行やエンロン社債のデフォルトが起こったときには、リスクヘッジとして金が買われ、その後の金価格上昇のキッカケのひとつになったことは未だ記憶に新しい。

おりしも米国債券市場は、ベアースターンズ傘下のサブプライムに特化したヘッジファンドの実質的破綻に大きく揺れている。昨晩もバーナンキが上院証言で、サブプライム関連の損失を円換算だと6兆円?12兆円相当と述べている。インフレも心配だが、住宅市場の信用不安が消費に及ぼす悪影響も心配。結局利上げも利下げもできないからバーナンキは手錠はめられて動けないと表現されている。

インフレについては、原油高に加えてドル安から派生するインフレ懸念が新たな要因として指摘された。そのなかで金価格は677ドルまで続伸。NY株式市場は、終値ベースで(計ったかのように)14000ドルちょうどをつけたが、その銘柄別の内容が示唆的だ。ハイテク、商品(コモディティー)関連が買われ、金融セクターは全滅。サブプライム懸念で、あのIPO(Initial Public Offering:株の新規公開・上場)に湧いたブラックストーンまでとばっちりで売られた。

このような米国債券市場発の信用不安に怯えるマーケット環境のなかで、債券を裏づけにした金関連商品が日本ではデビューするというのも皮肉な話ではある。

2007年