豊島逸夫の手帖

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セオリーと違う展開

2007年2月23日

ドル高、利上げ、株高―いずれもこれまでの金の教科書では売り要因とされた材料が揃い踏み状態である。しかも、現物需給はだぶつき気味。日本での円安プレミアムに触発された利食い売りラッシュは例外としても、伝統的金退蔵地域=アジア中東を見ると650ドル以上の現物はまだ買われていない。

にもかかわらず700ドルを窺う展開。何故か。

まずドル高といっても、利上げといっても、0.5%という絶対的に低金利水準にある円が集中的に売られているに過ぎない。グローバルに目を転じれば、マーケットのテーマは、中国、ロシア、産油国の"ドル離れ"である。その証拠に、ドルがユーロに対しては高くなったり安くなったり方向感が定まらない。

株高に関しては、昨晩NY株がイラン情勢緊迫、原油反騰を嫌気して売られたのが良い例だが、地政学的リスクに弱いというアキレス腱がある。高まる地政学的要因と同居して、企業業績をテコに株が銘柄物色される構造ゆえ、金、株同時上昇トレンドとなる。

現物需給に関しては、今やアジア中東という伝統的地域だけ見ても、グローバルな状況を把握するには不充分となった。ロンドンに保管されている大量の金塊が、NYを舞台にETFを通じて売買される時代になったからだ。NY金市場の最新像は、先物と現物が同居するマーケットである。CFTC(先物買い残高)とETF残高(WGCデータ)を時系列で検証してみると興味深い。

■CFTC先物買いとETFの残高比較


 CFTC

 ETF

今日現在

 388

 594

一週間前

 312

 566

二週間前

 262

 557

三ヶ月前

 276

 526

六ヶ月前

 312

 488

単位:トン

短期的売買の出入りが激しく200トンから300トンのレンジで増減するCFTC先物買い残高と、傾向的に増加してゆくETF残高の推移が対照的であろう。

さて、気になるのが、今後の展開だ。ここまで登ってくると700ドルという当面のサミット(頂上)は、いやでも視野に(それも間近に)入る。あとはイラン情勢やマクロ経済指標の出方次第だが、頂上近くの8合目は雪崩が最も発生しやすい箇所でもある。特に新雪雪崩には注意が必要。つまり、ごく最近投機的に醸成された買いポジション(ここ数週間のCFTC発表買い残増加分)はおっかなびっくりの手合いだから、経済データなどで相場が逆に振れるとあたふたと逃げ出すからだ。

なお、このCFTC増加分には低金利通貨円を借りて金が買われている通称円キャリーの部分が少なくないというのが筆者の感触だ。この手合いも、ドル円が円高に転じると一斉に巻き戻されよう。

そして更に重要なのは700ドルというサミットを達成した後である。山頂に立てば、更に高いサミットが目の前に聳え立つ。でも、尾根続きには行けない。いったん沢づたい降りねばならぬ。700ドル近辺ともなると、さすがにグローバルな需給は明確に緩むと思う。需給ファンダメンタルズの裏づけのない相場に持続性はない。その意味で、650ドル以上がまだ固まったとは言えないよ、ということだけは頭に入れておこう。

2007年