豊島逸夫の手帖

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フロリダ教職員の給料遅配

2007年12月10日

サブプライムウイルスは東京下町の信用金庫まで侵入していたが、米国内でも地方自治体レベルにまで感染が拡大。教職員、水道局員、消防署員に至るまでの給料遅配騒動が起こっている。

この問題の主役は、Local Government Investment Pool(略してLGIP=地方自治体投資プール)。米国では州政府の管内地方団体(地域教職員組合など)の公金を受け入れ運用するシステムが普及し、その数は約100。運用総額は数兆円と言われる。当座資金を遊ばせておくより、皆でまとめて運用し、すこしでもリターンを稼ごうという発想である。その運用目論見書を見ると"堅実、保守的運用に徹し、安全性、流動性の確保が第一"とある。

事の発端はブルームバーグのスクープであった。フロリダ州のLGIPは米国最大規模で総額270億ドル(約3兆円)。その運用資産の中に、例えば20億ドルのSIV(Structured Investment Vehicle)など、サブプライム関連問題資産が多く含まれていることが発覚。慌てて、州当局もSIVの運用状況について調査開始したものの、SEC(米證券取引委員会)に登録されておらず、ディスクロージャールールもなく、従業員ゼロの特別目的会社(SPC)ゆえ、実態は掴めず。その間、サブプライム関連資産の格付けが、最悪D(デフォルト)に格下げされるに至り、プールからの資金引き出しが殺到。あっと言う間に総資産額が44%にまで半減し、ついに解約凍結宣言となった。州政府は1ドルあたり10セントの割合で一律減額により痛みを分かち合う案を提示したが即拒否された。

当座資金引き出しを凍結されたジェファーソン郡は"職員給与分だけは救済措置を"と訴えたが、"LGIP制度は給与支払い制度ではない"と一蹴され、急遽220名の教職員給与支払いのため、短期資金借り入れを余儀なくされる羽目に。"ヘッジファンドも教職員組合も同じ扱いか"と思わず愚痴も出る。

各郡からは、"説明書にも担当者の説明も、安全第一の運用というから信じていたのに"という大合唱。その"説明"を誰がしたかといえば、ベアスターンズ、メリルリンチ、レーマンなどお馴染みのウオール街の老舗の名前が並ぶ。住宅金融会社大手カントリーワイドの子会社発行CD(Certificate of Deposit)も掴まされていた。(ちなみに同社の株は68%ダウン)。これに対し、"あんたのところのセールスのメアリーが太鼓判押すから"などと糾弾されても、各社は一切ノーコメントを貫いている。

事はフロリダだけで収まるはずもなく、コネチカット、メイン、モンタナなど色々名前が出てきている。これらLGIPのブランドネームが、コロラド州はコロトラスト、オハイオ州はスターオハイオだと。実に虚しく響くね。

このようにサブプライムが庶民の間でさえ痛みを感じられるまでに拡大したからこそ、本欄でも紹介してきたように大統領選挙でクリントン女史もイラク問題以上に神経を尖らせているのだ。

LGIPに運用商品を薦めたウオール街のボーナスが2兆円というのでは、選挙民も納得できないであろう。今後、"投資リスクが開示不十分"ということで訴訟沙汰にもなる気配。日本のディズニーランドでは昨晩停電騒ぎがあったが、本場フロリダはオレンジ郡のディズニーワールドでは、水道、電気、消防などの地方行政サービスに支障が出る事態になるかも。

なお、LGIP保有サブプライム資産のヘッジとして、これも本欄で説明してきたCDS(債券不履行スワップ)という債務不履行リスクをヘッジする商品を売りつけるというのだから、ウオール街の連中もしたたかではある。

マーケットが最も恐れるシナリオは、LGIP保有SIVの資産がファイアセール(叩き売り)されること。日本のゴルフ会員権がバブル破綻後、二束三文になってしまったような事態も、危機管理マニュアルには想定されているようだ。日本の一連の食品品質偽装事件を知ってか知らずか、米国人コメンテーターが"これは食肉品質詐欺事件に似ている。食肉検査業者=格付け機関が食肉加工販売業者=大手金融機関からコンサルタント料を貰っているという制度に問題あり"だと。

さーて、今週は日本時間水曜日早朝4:30にFOMC発表。11月のWGCセミナー時点では、新鮮な話題だったが、今や、すっかり陳腐化してしまった感あり。0.25%利下げまでは完全に織り込まれ0.5%までどうかという段階に。常に先読みの本欄としては、来年のFOMCでの利下げ継続を示唆する発言ありやなしや、さらに、FFレートに加え公定歩合の同時引き下げありやなしやに注目したい。後者についてはFRBのdiscount windowと呼ばれる、資金不足の民間金融機関の駆け込み寺が課する懲罰的金利も同時に下げれば、クレジットクランチ緩和の効果は期待できるという読み。

先週末は業界の研修会に朝の9時から何と300名も集まり、主催者側もびっくり。研修メニューは金、原油、テクニカル分析。明日は東京商工会議所主催のゴールドセミナー。とくに台東区には貴金属宝飾業界があるから、これもギョーカイの勉強会である。この人達は素材としての金の価格が上がると困る方々なのだ。素材価格が上がっても価格転嫁も出来ず、結局、指輪の金の付け目(使用量)を減らすしかない。顧客サイドにしても、今年のクリスマスは愛を告白するリングも相当奮発しないと、"貴方の愛情は、こんなに軽くて薄いの"と言われそう。ボーイフレンド諸君に同情します。ガールフレンド諸君は金価格の勉強をして、彼氏の苦労を分かってあげてくださいな。

2007年