豊島逸夫の手帖

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本当の急騰要因は?

2007年10月31日

金価格は800ドル直前で東京発の利益確定売りが出て、日本時間で780ドル台まで急落した。後に続いた欧米市場もこれを追認。最近は東工取の価格形成が国際金価格形成にも影響を与える局面が散見されるようになった。

ここ数日の800ドルへの急接近の最大の原因は、オプションという内部要因である。まず、原油の世界で、先週末には90ドル、100ドルのコールオプションを売っていたトレーダーが真っ青になってヘッジ買いに走った。(NY原油先物市場のフロアーからの中継で、"コールオプション、90ドル、100ドル、次々にヒット!=やられている"と叫んでいたのが印象に残った)。

ひらたくいえば、原油価格が安い頃、まさか90ドルなんて有り得ないとタカをくくって、ここ一年間ならいつでも90ドルで売ってやるさ、という約束をしていたオプショントレーダーが焦っているのだ。万が一、90ドルで買える権利を行使されてもいいように、90ドル前後で原油を買い手当てして備えるという行動である。

オプションというのは、オプション契約で一定の売買価格を保証する側は、顧客が払う、なにがしかの対価=掛け捨てのオプション料をまるごといただける、おいしい商売である。ただし、価格が一定のレンジ内に収まっているという条件つき。もし、マーケットが乱高下してレンジの上または下へ放れると情勢は一変する。価格を保証した側は、とんでもない損失を蒙るからだ。そこで、オプショントレーダーは、路上に落ちている無数の小額硬貨を拾えるだけ拾って儲けようとするが、夢中になって拾っているうちに、たまに猛スピードで突進してきたトラックにひかれ重傷を負うと言われる。今回は正にそんな例である。

金オプションも同様。金価格が安い頃、まさか800ドルなんてつくわけがないと確信し、800ドルで買える権利をどんどん売っていた胴元が、パニックになっているのだ。そのオプションは、仲間内で"ぽんかす"などと言われるのだが、顧客にしてみれば、安い宝くじを買うような感覚であった。損しても、払い込んだ安いオプション料以上には膨らまない。

かくして、オプションにからむ思惑で相場の大台付近では上げ幅も下げ幅も大幅に増幅する現象が近年しばしば見られる。個人投資家は、こんなときに調子に乗って買ったら、えらい高値掴みすることになる。

さて、いよいよ24時間後に、FOMC金利決定。0.25%追加利下げ説(=FF金利4.5%)が圧倒的支持を得ているのが気になる。それだけサプライズの要素が増えたということ。さらに重要なことは、仮に今回0.25%でも、それが今後も3回程度続くのかということ。UBSが第四四半期もかなりの評価損計上見込むなどの発言しており、その可能性はある。昨日紹介したビルグロス氏の3.5%予測まである。そうなるとユーロの4%と接近、場合によってはドルユーロの金利差逆転だってありうる。

これまではドルの赤字体質というドル売り構造要因と、金利差によるドル買い要因がある程度拮抗していたわけだが、こうなると圧倒的にユーロ買い要因が優る形勢になるかもしれない。これは対ユーロのドル安加速を意味する。

それにしても日本は0.5%。あまりに絶対的金利差が大きすぎるね。これではキャリートレードが収まらない。ドル安の流れのなかでは、円だけがわが道を行くことになりそう。ということは、円安、海外金高のダブル上げ現象も増えそう。金にとっては、数少ない円高局面は貴重な買い時となろう。

2007年