豊島逸夫の手帖

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中国金投資最新事情

2007年7月24日

先週、北京にて開催されたゴールドセミナーに講師として出向いたおり、現地にて色々見聞きした情報をまとめてみた。

―問題は付加価値税の処理にある。一般的に付加価値税は17%。売上と仕入の差=付加価値にのみ課税される。(もちろん、課税回避=裏の取引も多いらしい)。上海金取引所(SGE)における金売買には不課税。銀行経由の金取引には、投資家への販売の際、課税される。問題は、銀行による買い戻しのケース。銀行から投資家へ付加価値税が還付されるべしとの税当局の指導に対し、銀行サイドの内部システムが対応できない。結果、投資家から見ると売り戻しできないのが現状となっているのだ。一部店舗で現物販売も始まっているのだが、買い取りはしないとの条件付きだ。現在、銀行の店頭で販売されている主力商品=金口座についても、現引き(現物引取り)はできない。なお、この金口座は活況で、すでに残高が100トンを越しているとのこと。業務の中心は大都市の母店と呼ばれる主要店舗が主体で、徐々に方にも拡大中である。

―先物については、SGEが監督官庁から許可を待っている状態。従来、時期尚早として慎重な態度を見せていた中国人民銀行も、前向きのスタンスに転じた。今年中にはゴーサインが出ようとの観測。なお、SGE自体が100グラムバーを銀行経由で販売する業務の流れもある。現引きも割増チャージを払えば可能。買い取りはせず。

―四大商業銀行は海外の金取扱銀行からコンサインメント(委託販売)の金現物を受けるための外貨枠を取得している。すでに、このルートで金の仕入れも始まっているが、現物調達の主流は国内生産の金をSGE経由で買い取る方式である。

さて、筆者が北京や上海に行くたびに感じることは、中国人の個人投資家のマーケットに対する姿勢だ。とにかく荒っぽく、往々にして投機に走る。偉そうに構えている銀行の部長さんが、セミナーで"金って儲かりまっか?"と真面目な顔で聞いてくる。お行儀は悪いのだが、市場参加者が自分なりの相場観は持っているので、売買両面のいわゆるtwo-wayの流動性が潤沢に出る素地がある。(ここがone-wayの日本と決定的に異なるところ)。ディベートをやらせると、口角泡を飛ばして売りだ買いだと自分の意見を主張して一歩も引かない。

こういうマーケットは育つ。もちろん、コンプライアンスがある程度確立されることが前提だが。(現状では、あの国にコンプラに相当する言葉は無い)。お行儀の悪さに対しては力づくでお灸を据えるのが中国式。上層部には、まず監督ありき、との発想が強く残る。人民銀行や党からの天下り組が幅を効かせる。

そういう人達にレクチャーしていたときのエピソード。"高値で鉱山会社が金を売却すれば価格は下落しますが..."と話したところで、最前列のお偉いさんが"待った"をかけてきた。"豊島先生、それは違う!"と。その自信たっぷりの態度に当方も一瞬たじろいで"な なんですか?"すると、"鉱山会社に売らせなければよいのです。"と。

このような発想が残る国だが、全体主義国家の特徴として、トップダウンでこうと決まれば末端まで一体となって目標に突っ走る様にも驚かされる。金投資業務が始まって間もないのに、当局では金投資アナリストの育成を掲げ、やれ資格試験だの何だのと相談してくる。インターネットの普及も進行を早めている。そもそもSGEの創設時点から電算化されているわけである。

筆者の感覚では2年後には中国発の金売買がかなりの規模に達すると思う。株の世界ではいち早く上海発の流れが世界の市場に影響を与えているが、金の世界でも早晩、"日本の午前中の取引は上海のオープニングを見極めてから"などということになりかねない。そうならないように日本サイドも格段の努力をせねばならぬ、と痛感しつつ帰国した次第。

そして、金市場における中国要因も現在進行中のまだまだ"若い"材料であること。中国市場のインパクトの本番はこれからなのだ、とも確信した。そう考えると"22年ぶりの高値"も高くは感じられなくなるものだ。

2007年