豊島逸夫の手帖

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いよいよ秋本番へ

2007年9月3日

米国では、レーバーデー三連休(9月1、2、3日)が夏休みモードからお仕事モードへの切り替えの時期。これから秋相場へ突入と市場関係者は気を引き締める。

しかし、今年はやや様相が異なる。とにかく8月の動きがハンパではなかった。
ただでさえ取引量が薄い季節なのに、信用収縮が重なり、値動きが異常に荒い状況が続いた。リゾートのビーチに寝そべってブラックベリー(携帯デバイス)で指示を出していた上級管理職たちも次々に呼び戻された。これまでの市況の経験法則では、Sell in September(9月は売り)なのだが、それが8月に早まった感じ。

また、レーバーデーは従業員解雇のD-Dayとも言われる。名前が挙がっているのがレーマン、ゴールドマン、ベアースタンズのストラクチャー(仕組み債)部門。

マクロ経済環境に目を向ければ、ブッシュとバーナンキの"市場救済ソング"デュエットを聞いたマーケットにとりあえずの安心感が漂う。市場の筋力増強のためステロイド注入を行ったわけだ。筆者も花粉症が酷いときに最後の手段でステロイドを打つのだが、当座は実に良く効く。ただし、使用方法を間違えると副作用も怖い。FRB(米国連邦準備銀行)、ECB(欧州中央銀行)、BOJ(日本銀行)が今回注入したステロイドの副作用は、過剰流動性を更にばら撒いたことにより資産インフレの種を増やしたことか。

思い起こせば、近年の世界的カネ余り現象の種を撒いたのはグリーンスパンなのだ。LTCM、ハイテクバブル崩壊、911テロなどの金融危機の度に緊急利下げ、流動性注入を繰り返して、危機の拡大を防いだ。同時に過剰流動性という置き土産も残した。だから、グリーンスパンは"バンカー脱出はうまいが、コースにいくつものバンカーを造り残した"とも言われるわけだ。

さて、サブプライムをキッカケにデリバティブ商品全体の見直しも進行中だ。極度に複雑化した信用の連鎖に対する反省感とも言えようか。

筆者のNY米国投資銀行で働く友人がこぼしていた。仕組み商品の内容を精査し資産を処分せよとの命令。ところが社内手続きが分からず、慌ててホコリ被ったマニュアルを紐解いている。パラシュートで落下始めてから使用マニュアルを開いたようだと。

さて、いよいよ秋相場突入。8月の乱高下は"真夏の夜の夢"と忘れることだ。
そして、秋本番の展開を決めるのはバーナンキでもブッシュでもない。マーケットである。金価格に関しては、年末までに再度700ドルへの挑戦があろう。

2007年