豊島逸夫の手帖

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金市場構造変革の意味

2007年2月19日

金市場の裾野が拡大してくると、当方の仕事も加速度的に増えてくる。先週は海外からの市場関係者の来日が相次いだ。正確には従来の市場関係者ではない人達との金市場関連の接触が急増。(マーケットの構造変革とはこういうものかと実感。)更には、ここ数年、チャイナ、チャイナで日本市場にはすっかりご無沙汰だった外国勢が再び日本市場に目を向けている状況もある。

おなじ週にGA(ゴールドアドバイザー)研修会。市場の第一線からは、これまでの投資家の売り戻し一色から、金貨千両箱購入などの新規買いの動きが散見され始めたとのレポートあり。

そして、WGC-GFMSによる2006年第四四半期金需給動向調査発表も重なった。この件は、先週火曜日の日経夕刊"明日の勘所"、そして土曜日の日経朝刊にて報道されているとおりの内容だ。ひとことで言って、インドは昨年前半高値買い控えから後半高値慣れ、新規買いへ明確な転換。中国の需要は高い経済成長、金解禁を背景に年を通して価格変動にそれほど影響されず堅調。対して、中央銀行の金売却は半減。(それに半年ほど遅れて日本が今、ようやく高値慣れ=いつまで待ってもそう下がらないという感覚が散見されるようになったということか。)

マーケットには21年振りの高値という言葉に惹かれて"これからどうなる"という感じの新規参入希望者(投資家&ギョーカイ)のアポローチ相次ぐ。それやこれやで筆者の頭の中はウニ状態になり、おまけに風邪までもらって、更新できませんでした。(以上長い言い訳でした。ギョーカイ関係者の方には、メール、電話などの対応ができなかったことをお詫びします。)

今日は中国春節休暇中、米国休日でほっと一息。(つけるかな?)

さて、相場だが、海外金は670ドル前後まで上昇中。国内は122円から119円へ。円安か円高か。欧米では遂に始まった円キャリー巻き戻し=ドル安再燃という論調。国内では今週日銀利上げがあっても絶対的金利差に変わりなし、故に"外もの"への個人投資マネーの動きは止まらない、故に円安の趨勢に変化なしとの(希望的観測も含めて)見方が支配的。要は、国内では円高になっては困る投資家(そしてギョーカイも)が多い(ドル高待望論)のだが、海外では経常赤字、住宅市場など米国経済のアキレス腱が視野に入る人達が多い(根強いドル離れ傾向)という対照的状況なのだよ。それゆえ、日本人は円を売ってドル、ユーロを買う話が多いのに対し、海外では中国、オイルマネーのドル離れ=ユーロ買いがしきりに語られる。なにより、ユーロ相場が対円高値更新だが対ドルでは強弱方向感定まらず、というねじれ現象が、このセンチメントの差を雄弁に物語っている。

筆者の見方は変わらず。グローバルなドル離れ傾向こそ、今年の金市場のテーマと見るべし。(ここにきてロシアの金買いがしきりに噂されている)。ドル離れしたマネーの受け皿にユーロなど他通貨と並びゴールドという"代替通貨"が浮上している構造である。

今朝のTV東京の経済番組で多通貨分散投資ものが人気という話があったが、金利もカントリーリスクも高い国の通貨群に分散するのであれば、カントリーリスクのない"代替通貨"にも分散してヘッジしておく発想も必要だと思うよ。

なお、米国の金ETFの残高が再び急増中だが、そこでは米国人富裕層の参入も顕著とのこと。従来の金の教科書では"米国人投資家の金現物選好度は低く、金は先物投機の対象と見られる"とされたが、現物拠出型ETF(金銭信託型ではない、金現物100%裏づけのあるETF)の出現により、buy and hold(現物長期保有)の米国人富裕層が動き始めたというこれまで見られなかった現象だ。これは日本市場にとって興味深い。これまで金地金、金貨などには拒否反応を示し金先物も敬遠してきたタイプの投資家が、現物拠出型の金ETFを通じて金市場に参入してくる可能性が強いことを示唆しているからだ。なにせ、市場調査などでも、現在金を保有している日本人投資家は、まだ10%そこそこなのだから。

2007年