豊島逸夫の手帖

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ドルは古女房?

2009年6月4日

長期的なドル安が進行中と言うが、金融危機のようなイザというときには結局、ドルにマネーは逃避してドル高になる。でも、危機がピークを超すと、マネーはサッサッとドルから離れてゆく。

今の外為市場のマネーの出入りを見ていると、ドル危機ならぬ、10年目の危機で一時は若いユーロに浮気したが、結局は古女房のドルに戻ってゆく、でも、やっぱり浮気の虫は治まらない、ユーロがダメなら豪ドルというガールフレンドを見つけ、またぞろ浮気に走る。そんな放蕩亭主像がイメージとしてダブってくる。断っておくが、これ、筆者の個人的経験を述懐しているのではないからね(汗)。

所詮、投資家マインドは浮気の虫から離れられないのかもしれない。そこで金はどういう存在かと言えば、やはり、お母さんみたいなものかね。でも、金ばかりに走っても、それはマザコンというもの。

さて、昨日、ワールド・ビジネス・サテライト(WBS)の取材カメラの前で最初に喋ったことが以下のような内容であった。(長すぎて、当然、放映には至らなかったが)。

最初の質問が、金融危機が後退して"安全資産"の必要性が薄れているはずなのに、なぜ金価格が下がらず上がっているのか。

そこで、今、金を買っている人の気持ち。突然、大雨に遭遇し、雨宿りでドルとか金とかいう家の軒先に駆け込んだ。でも、どうやら雨もあがってきたようなので、ぼちぼち外に出ようということになった。でも、また何時、通り雨に降られるかもしれないから、近くのコンビニに寄って傘を買ってゆく。それが金融危機後退後でも金を買い続ける投資家の気持ちなのではないか。株に回帰してゆくが、ヘッジとして多少の金も積み立てておこうというわけだ。だから金価格1000ドル接近とか言っても、市場にさほどの喧騒感が感じられない。ヘッジファンドがドッと金市場に押しかけ、30倍のレバレッジかけて金を買い上げた2008年とは様子が全く違うよ、と語った。

5月22日付け本欄のタイトルを"静かに950ドル突破"としたが、突出した要因もなく、まさに静かに上がってきたという感じなのだ。

ヘッジファンドでさえ、同じ金を買うのでもレバはあまりかけにくいので、等倍の金ETF購入程度に抑えている。一方、欧州の投資家は欧州系銀行が未だ大量の高リスク証券化商品を抱えて、これから資産査定を受けるというので不安感を募らせ、金貨購入などに走っている。だから今年の欧州の金需要が前年同期比6倍に急増したわけだ。金融制度が最も堅固といわれたドイツ、スイスに、その金購入の8割が集中している現象が実に示唆的である。なにやらペイオフ解禁前夜に銀行預金を下ろして金を買った日本人投資家の行動を連想させる。投資家マインドというのは洋の東西を問わず、変わらないものと見える。

なお、本番の放映では、ドルもユーロも不安という"通貨不信"のなかで、通貨の世界の原点回帰で一部のマネーが金へ、というくだりが流れました。今日中(6月4日)なら、WBSのHPで、動画で見られます。

相場動向については短期弱気、長期強気と述べたのですが、短期弱気はカットされ、長期的に瞬間タッチで1200ドルへの部分だけ流れました。ま、今日の日経CNBC5時からのデリバティブ番組では6分くらい語れるので、昨日不完全燃焼に終わった部分を補足したいと思います。(再放送は8時過ぎから)

実は、昨日はもうひとつ、飛び込みでテレ東ニュースFINEの取材がありました。それは政府が使用済携帯回収を呼びかける運動に乗り出したというニュースについて。

携帯電話(一台80グラム)として、そこから回収される金が0.032グラム。ということは金5グラムを採るのに金鉱石なら1トン必要だが、携帯電話なら155台回収すれば済むという話でした。

これも今日日中であれば、ニュースFINEのHPの"ピピッと!けいざい好奇心"をクリックすれば動画で見られます。

さて、昨晩のNYは発表された経済データが悪く、リフレ相場に冷や水を浴びせたカタチで、株も商品も売られる展開。とくに明日発表の毎度お騒がせ米雇用統計で失業率が9.2%程度まで悪化、という観測を先取りするような"噂で売る"動きも見られた。

外為市場ではドル高に振れ、金は960ドル台まで売り込まれる展開。NY金先物買い残が先週末時点で86.2トンも急増し、ネットの残高も551.5トンまで膨張して、天井と看做される600トンの大台に迫ってきたので、地合いとしては"重く"、利益確定売りが出やすい環境であるから、短期的には少しでもドル高に振れれば金価格は下に振れる。でも、これは"健全な調整"である。あって当然。なければ、のちのちの反動の売りエネルギーが蓄積されるばかりだ。

2009年