豊島逸夫の手帖

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『真夏の夜の夢』から覚めたマーケット

2009年8月18日

夏季休暇は福島の山中で過ごした。マーケットから距離をおいて見ると、big picture=大局観はよく見えてくるもの。

前回8月5日の「真夏の夜の夢-リスク回帰相場」で、最後に"総じてリスクマネーの動きほど当てにならないものはない。マーケットのセンチメントで猫の目のように変わる。金価格930ドル以上は、ショートの買い戻しが主体。夏季休暇中の薄商いがもたらした真夏の夢か"と結んだ。

その後、一時急騰局面もあったものの、結局売り込まれて930ドル台まで戻ってきた。この2週間、終わってみれば、なーんにも変わってない。日々の相場を追っていたら、今頃、虚しさで徒労感に苛まれていただろうな、と思う。

さて、昨日のマーケットは、一転してリスクマネー撤退モード。日本株も中国株もインド株もNY株も売られた。恐る恐る外の様子を窺っていた投資家たちが、慌てて首を竦めて甲羅の中に戻った感じ。株安によりリスク意欲が低下すると、外為市場では"逃避通貨"として米ドルが対ユーロで買われる。このドル高現象は商品には売り材料となる、という展開。

ここで虫の目ではなく魚の目でマーケットの潮流を見れば、世界的景気回復の持続性が問われていることに尽きる。日本も中国も米国も財政出動で当座のGDP成長率は上がったが、カンフル剤が切れたときに、果たしてこの経済回復のモメンタム(勢い)らしきものが持続できるものだろうか。

昨日、上海株が急落した中国にしても、公的インフラ投資による景気押し上げ効果が消費に繋がらなければ一過性に終わり、内需主導の持続的景気回復は期待できない。でも、消費者が安心して財布の紐を緩められるようになるには、年金、健康保険などのセーフティーネットの構築が欠かせない。となると、これは一年やそこらで出来る話ではない。

一方で、相変わらず中国国内資産バブルが市場では懸念されている。中国人民銀行としては、バブル抑制のためには緩め過ぎた金融のバルブを多少締めたいところだろう。

さらに米国に目を向ければ、先週、FRBが米国債買い取りを10月末までに終了させる方針を明らかにした。重篤な患者の血液検査の数字が相変わらず悪いのだが、その悪さ加減が以前より改善されたからといって、いきなり外気に晒して果たして大丈夫なのか?FRBの出口戦略について色々議論されているが、総論でその必要性が理解されても、各論で実施のタイミングを計るとなると、これが実に難しい舵取りになる。早すぎれば経済回復は失速するし、遅きに過ぎれば通貨増発型インフレの懸念が高まる。

要は中国も米国も日本も、景気回復の持続性には大きな「?」が残るのだ。だから7月24日付け「NY株高はホンモノか」で、こう書いた。「株に戻るなら、筆者は長期投資論者なれど、今に限っては、短期決戦に徹するべきと思う。W字型の真ん中の山を超えているのが今と心得るべきだろう。」

金に関して言えば、コモディティー=商品としての金需要は低迷し、金融資産としての金需要は拡大するシナリオが続く。

早いもので来月にはリーマンショックから1年経過となる。今年は金融危機の再来こそなさそうだが、代わって財政危機が顕在化しそう。9月から11月までの3か月は、また上へ下へ変動の激しい相場になると覚悟している。

2009年