豊島逸夫の手帖

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英文解釈相場

2009年10月27日

昨晩はNY時間昼前から外為市場でドルが反騰。それがキッカケで株、債券、商品がアッと言う間に売られるトリプル安になった。ドル高に振れた要因は、ドル買い材料=FRB利上げ観測と、ユーロ売り材料=欧州金融不安(ING)である。

INGについては、すでに日経朝刊国際面に「ING1兆円資本増強、保険資産運用部門を売却」の見出しで報じられている。この材料は、米国から見ると「米国がすでに辿った金融不安の道を欧州はまだ歩んでいる」との解釈になり、ユーロ不安要因とされた。

FRB利上げ観測は、英文解釈相場と言っていい。FRBが昨年12月に実質ゼロ金利政策を導入した際に、FOMC声明文には、weak economic conditions are likely to warrant exceptionally low levels of the federal funds rate for some time =経済環境が弱くFFレートの異常な低水準がfor some time当面必要とされよう、と記された。さらに 今年3月に入ると、for some time が、for an extended period=当初より長引く期間、というニュアンスに変わった。これは、6か月程度を意味するとマーケットでは解釈されているのだが、このextended period という表現が現在に至るまで使われている。

そこで、マーケットの一部では、そろそろこの表現が変わるのではないか、との観測が生まれているのだ。FRBとしては、ゼロ金利を永遠に続けるわけにはゆかないわけで、そろそろ利上げを匂わす表現に変えるのではないか、との見方である。

まず、FRB高官が、講演などで、経済環境が利上げを正当化するようなニュアンスを行間に滲ませる。然る後、徐々に具体的な言い回しを使ってゆき、extended period を元のfor some timeに戻したら、その時こそ利上げ容認の意思表示というシナリオだ。

以上詳しく書いてきたが、要はそれほどにマーケットは今か今かとFRB利上げの兆候に神経質になっている。

それではドルが反騰して、なぜNY株が下がるのか。これまでドル安をテコに、IBM、P&Gなど、現地通貨高でドル建て利益が膨らむ国際株が買われてきた反動、そして同じくドル安で国際競争力が強化されたGEやキャタピラーなど輸出関連株の売りがまず挙げられる。

さらに、先安感が強く異常な低金利のドルを借りて、株、商品などのリスク資産を買う、いわゆるドルキャリートレードに巻き戻しが起こるとも解釈される。(このドルキャリーは当たり前の話で、キャッチ―な言葉が独り歩きしている感はあるが...。)

そもそも利上げというのは金融引き締めへの転換を意味するから、足元では金融危機、世界同時不況からの脱出宣言ということで前向きに評価されても、やがて金利上昇の景気抑制効果がジワジワとボディーブローのように効いてくるものだ。昨晩も、まだ残る金融不安要因として論じられてきた商業用不動産を大量に抱えたキャップマーク社が、1兆円以上の負債で破たんというニュースが出ていた。

まぁ、金融危機の傷跡はまだ固まっておらず、ナマ傷が残る状態でFRBがいきなり利上げに踏み切れるはずもない。来年後半にずれ込むと思う。しかし、それまでの間、マーケットはFOMC声明の英文解釈に一喜一憂して乱高下しそうである。

さて、ドル利上げ、ドル高に最も直接的に反応するのがドルの代替通貨で、しかも金利を生まない金。1040ドルを割り込んだ。今後のポイントは、1030ドル台という、これまでの史上最高値水準をも割り込むか否か。

投機マネーのドカ雪で、積りに積もった先物買いポジションは、利上げの物音で、いつ表層雪崩を起こしても不思議ではない状況。実需から乖離した相場の危うさが潜む。根雪ごと削いでゆくほどの壊滅的雪崩にはならないが、中規模の表層雪崩の可能性は強いと感じている。

しかし、株も金も、世界中の投資家が皆異口同音に「下がったら買う」と待っている状態。逆に言えば、NY株が3月の安値から60%戻したと言っても、金が史上最高値を更新したと言っても、ほとんどの投資家は上げに乗れていない。要はウズウズしているのだよね。

2009年