豊島逸夫の手帖

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豚インフルの影響は...

2009年4月30日

豚インフルも警戒レベルが4から5になると、そろそろ影響も考えておかねばなるまい。まったく、悪い時には予想もしなかったような悪い事が重なるものだね。本欄の定期読者に限っては、まさかこれで"有事の金"などと短絡的に考える人はいないと思うが、大局的にモノとヒトの流れが滞ることが心配である。

EU健康問題担当高官が"米国への渡航自粛"を"個人的なアドバイス"として呼びかけたことは、米国で顰蹙(ひんしゅく)を買っている。こういう不協和音も、G20で金融危機対策としての財政出動を巡って対立した記憶がまだ鮮明に残る時期ゆえに気にかかる。

昨晩のFOMC声明では、経済成長のpace of contraction(縮小ペース)がappears somewhat slowing(やや減速の兆し)という非常に控えめのトーンの楽観論で語られた。けれども一方では米国GDPマイナス6.1%で34年ぶりに3期連続マイナス成長との発表もあった。そのような背景での豚インフル警戒度引き上げだけに、心理的冷却効果は無視できない。経済シナリオについて筆者の見方も、"Wの~~型"から"Lの下の部分が~~の型"が視野に入ってくる。

クライスラー破産法申請が今日中にもあるかという報道も流れるなか、5月4日のストレステスト結果発表も含め、今年のゴールデンウイーク中の海外市場は相当荒れそう。日本市場はクローズゆえ、とにかく手が出せないわけで、ヤバそうなポジションを持つ人は、身辺整理をしてゴールデンウイーク入りするべき。

さて、今日の話題は中国の外貨準備運用について。まず中国の外貨準備運用のシステムについてだが、基本的に外国為替管理局(SAFE=State Administration of Foreign Exchange)が主要部分を運用し、さらに、政府系ファンドのCIC=China Investment Corporationが外貨準備の約1割=2000億ドルの運用を受託している構造になっている。

CICは設立直後、ブラックストーンやモルガンスタンレーに出資していきなり大損(推定40億ドル)を出し、政府内で非難の的になり、しばらく"謹慎処分"となった。さらに、対外的にも、とくに米国からその投資先の選定が防衛産業など政治的な意図が感じられると、これまた非難の的となっている。

それに対し、SAFEの方は、外国株購入により、実はCICの20倍近くの損失を出しているのだが、さほど非難の対象にはなっていない(というか目立たないように行動している)。ただし、ファニーメイとフレディーマックの実質破綻の時には、中国首相がSAFEの両公社発行債券(いわゆるエージェンシーもの)保有の大きさに驚きを隠さなかったという報道もあった。それ以来、SAFEはエージェンシーものを売り払い、リスク資産圧縮の動きを加速させているという。

そのような背景で公的金購入増強を発表したことは、SAFEもリスク分散の考えを徐々に実践に移し始めたと解釈できよう。

筆者はSAFEの連中と二度ほど夕食のテーブルを囲んだことがあるが、ハーバードビジネススクールとかウオートンとかでMPT(近代ポートフォリオ理論)などを学んだ人たちの集団で、とくに30代半ばと思われる若手は欧米流の思考法を自然に取り入れていた。しかし、上層部は党からの天下り組なので、常に(世界経済ではなく)北京内部を見ながら行動するタイプのようだ。ゆえに、中国のリスクは、北京内部の政治的駆け引きで保有米国債を売却してしまう(その世界経済への影響=ドル金利急騰などは二の次という発想)ことであろう。

なお、10年もの米国債の利回りが2%台から3%を超えてきた。これは理屈で言えば、投資家の長期的インフレ警戒度が徐々に高まっていることを示す。FRBが声明で明確な出口戦略を納得できる言葉で示さなければ、この不安感を払拭することは出来ない。でも、さすがのバーナンキさんでも納得できる言葉で示せないのだよね。

オバマ就任100日目にあたり、総合的には景気底打ち期待を込めた苦戦善戦という"希望的観測"評価もあるが、とくに財政赤字の未曾有の拡大の後遺症が大きな潜在的バッドマークとして目立つ。

2009年