豊島逸夫の手帖

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NY株もNY金も連騰

2009年7月21日

筆者は足元の金は弱気に見ているが、NY金は連騰。いまのマーケットのサイクルを見るとこうなる。
NY株連騰

投資家のリスク許容度↑

外為市場におけるリスクからの逃避通貨=ドルと円が売られユーロが消去法で浮上。ドルユーロはドル安。ドル円はドル高。本欄おなじみ三つ巴不等式の現在は、ユーロ>ドル>円。ただし、僅差の不等式だ。明日は順位が逆転しても全く不思議ではない。ファンダメンタルズの裏付けがないから。

リスクマネーが原油に流入して原油も連騰

その結果、金は連騰、対ユーロでドル安、原油高。リスク許容度回帰。株も買うが、念のため(転んだ時の杖代わりに)金も買う余裕が出てきた。
というところが金連騰の後講釈なのだが、でもね、である。

でもね、肝心のNY株上昇なのだが、本欄で2回は指摘してきたが、企業業績の改善といったって、コストカット、リストラでしょ。これだけでは縮小均衡の域を出ない。つまり、ちんまり損益計算書がまとまった決算である。マクロ経済的には雇用なき回復。それで本業の方はどうなの、改善の兆しをショーミー(見せてよ)というのが次の段階。

奇しくもSP500もNY金もレンジ上限の950の水準にある。SP500が950の上限を突破するには、ショーミーに応えられる証拠が必要。

本業改善のモデルケースとしてはCAT(キャタピラー)が引き合いに出される。中国向けと特にブラジル向けの建設機械が好調。ブラジルはBRICsの中で一番目出たないが、いぶし銀の味を出している。こういう会社がもっと出てくればNY株連騰もホンモノになるのだが。

CATとは全く分野が違うけど、一文字違いのCIT(中小企業向けノンバンク)破たん回避報道もNY株には追い風になった。

さーて、金だけれどねぇ、内部を見るに、気になる現象がいくつかあるので足元では強気になれない。
―金ETF残高急減。
―インド実需激減。
―940を超すと途端に急増するドバイのリサイクル。
―雇用なき回復では世界的に宝飾需要も戻らず。
―ドル安といってもユーロ高の裏返しなので、いつドル高に戻るやもしれぬ。現在の1.42はドルユーロの短期レンジの上限。

そんな中で、原油高に引っ張られ、プロは空売りポジションを買い戻したが、それが一巡した後で、950から新規買いが出るものか。欧米市場は実質夏期休暇入りゆえ、薄商いで値だけ飛ばす展開もあるかもしれないけど、そういう上げに持続性はない。戻り売りと見る。

なお、長期的には、景気回復シナリオが「雇用なき回復」というカタチで筆者の想定していたW~~型になりつつあるので、バーナンキの出口戦略としての金融引き締めは益々遠のき、増発された通貨だけがマグマのように沈澱する経済になりそう。現在のNY株高は企業決算の事前予想水準が低く、在庫水準も低位の反動で上がっているわけだが、9-10月には結局化けの皮が剥がれると思う。その時点で、住宅価格や消費のgreen shoots(希望の緑の芽)はyellow weeds(黄色い枯草)となる。信用リスクが再び高まり、VIX指数も上昇しよう。短期弱気の筆者も、中長期は強気の確信を深めている。

2009年