2009年6月23日
金の世界に長く居ると、イラン情勢には人一倍敏感になる。1980年の当時の史上最高値875ドルは、イラン革命とかイラン民衆によるテヘラン米大使館人質占拠事件などイラン関連"地政学的要因"が惹き起こしたものだった。近年ではイラン核問題が、やはり地政学的要因として(一過性ではあるが)金価格上昇に一役買った。それほどにイランは、地政学上、重要な存在である。
その歴史は、露、トルコ、英、米の列強に介入され、隣国イラクのフセインにも戦争を仕掛けられるという侵略の繰り返しであった。当然、国民は外からの脅威(とくに米国)に対して異常なまでに神経質にならざるを得ない。核保有も非安定的地域における当然の自衛策として大多数の国民が支持する。
そして、イランの権力構造も独特の形態である。選挙の洗礼を超越した絶対的権限を持つ"宗教的指導者"と、選挙により選ばれた大統領から成る二重構造である。大統領は財政、投資などの経済面では権力を持つが、宗教的指導者が実は軍隊の総司令官でもあり、司法、メディア、そして12名の法学者から成る護憲評議会をも掌握する。この評議会は選挙管理や候補者精査なども行う。
今回のイラン暴動の特徴は、大統領側の選挙操作疑惑のみならず、"大奥"のような宗教的指導者側が現職大統領に無言の支持を与えていることだ。選挙前から"望ましい大統領"として現職を暗示したり、評議会を通さず選挙の成立を"祝福"したりと、公然と介入をしたのだ。
世界の世論に対して挑発的言動を繰り返す現大統領と、それを暗黙に支持する宗教的指導者の姿を見せつけられ、このままでは"ヴェネズエラ型の馴れ合い全体主義国家"になってしまうとの危惧が民衆に広まった。真っ先に反応したのが若者たち。インターネットで情報を共有し、"チェンジ"を求めて立ち上がった。
選挙の事前予測は、現職と対抗馬ムサビ氏の接戦。ところが蓋を開けてみれば現職2400万票に対し、ムサビ1300万票足らず。あまりに露骨な選挙操作と、民衆が抗議活動に出たわけだ。
元々、"大奥"から見れば、大統領を選挙で選ばせるというプロセスを経ることで民衆の"ガス抜き"をする、という狙いがあった。しかし、今回ばかりは、それが"ガス爆発"騒ぎに発展してしまった感がある。これまで男尊女卑の文化の中で耐え忍んできた女性たちも立ち上がっている。どうも今回の騒ぎは思ったより遥かに根が深そうだ。
イラン革命から30年。同国は新たな選択の時を迎えている。今後の展開次第では、無視できない"地政学的"要因として(一過性ながらも)マーケットで材料視される可能性があろう。
さて、足元では、FOMC声明文の"英文解釈相場"の様相。外為市場で、引き続きユーロペシミズム(悲観論)が強く、対ユーロでドル高に振れやすい。NY株式市場は、米国債券市場を睨み、一喜一憂。
金価格はやっと下放れた。それでも原油が4%ほど急落した割りに、金は920ドルで、さほど下がった感じがしない。先週末発表のNY金先物買い残高が44トン減少して546トンへ。その後、建玉整理も進んでいると思われるが、それでもまだ上値でしこっている買いポジションも多く残る。反騰すれば戻り売りが予想される展開だ。
材料として、米国上院でIMFへの緊急支援案が可決されたことで、金403.3トン売却承認へ大きく動いたが、マーケットは織り込み済み。
筆者の注目点は、金ETFを買ってきた大型ヘッジファンドの売り戻しがまとまって出る可能性である。おそらく中期ポジションとしてbuy and hold=持ち続けるとは思うが。残高が1300トンを超すと、金ETFも潜在的売り要因となりうることも頭に入れておこう。
それが無ければ、当然、新興国が経済成長率鈍化の底打ち観測も手伝い、安値は拾ってくること必至。今回の調整が深ければ深いほど、年後半は反動で新規買いが加速すると見る。走り高跳びでも、助走距離が長いほど高いバーをクリアーするものだ。
昨日は、飛び入りでNHK衛星"経済最前線"の取材が入り、すでに昨晩放映されました。トピックは金宝飾品の買い取りが増加していること。タンスの肥やしになっていた昔のジュエリーが換金できると知って、女性たちが貴金属店に売りに来るというストーリーでした。金の生産コストが600ドル近くにまで急上昇しており、今後の金供給はリサイクルなどの二次的供給源に頼らざるを得ないという話をしました。