豊島逸夫の手帖

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GM破綻で金上昇は一服

2009年6月2日

本欄、今年1月23日付け"判決の日近づく"で、"まぁ、はっきり言えば、GM、UBS、そしてAIG。この三社に早晩判決が下りそうな様相である。"と書いてから、すでに4ヶ月が過ぎて、やっと判決がおりたわけで、金のマーケットとしては予想通り織り込み済み。"噂で買ってニュースで売る"の典型になった。

その割りには下げ渋っているな、というのが昨晩NYの金市場を見ての感想。昨日は金市場の内部需給構造を分析したが、今日は金市場を取り巻くマクロ環境の推移を吟味してみよう。

本欄4月7日付けで、1000ドルをつけた2008年3月17日と2009年2月20日のマーケット全体の流れを比較してみたが、今日は、それに直近でのアップデートを一番右に加えて比較してみよう。

  2008年3月17日 2009年2月20日 2009年5月28日
 NY金先物価格 1,002.5ドル 1,000.5ドル 958.0ドル
 金ETF残高 826トン 1,272トン 1,366トン
 NY金先物残 610トン 516トン 465トン
 原油価格 105ドル 38ドル 65ドル
 ドル円 96円 93円 96円
 ユーロドル 1.57ドル 1.28ドル 1.39ドル
 ユーロ円 152円 119円 134円
 NYダウ 11,972ドル 7,365ドル 8,403ドル
 ドル長期金利
 ~米国債10年もの利回り~
3.30% 2.70% 3.67%
 ドル短期金利
 ~FRB政策金利~
2.25% 0.00-0.25% 0.00-0.25%
 中国経済成長率 11%台 6%台 6%台
 VIX指数(別名、恐怖指数) 32 49 30

これを金価格変動要因としてまとめるとこうなる。(矢印は金価格への影響の方向性と強さを示す)

   2008年  2009年  2009年直近
マクロ要因 ユーロ高、ドル安 ↑↑ ドルもユーロも円も不安 ↑↑ ドル安 ↑↑
原油高騰、インフレ懸念 ↑↑ 原油、商品価格低迷 ↓↓ 商品高
株価懸念 株価暴落 ↑↑ 株価回復
金利下落傾向 ゼロ金利、通貨増発懸念 ↑↑ 米国債懸念 ↑↑
新興国経済非連動説 新興国経済連動して急減速 ↓↓ 底打ち兆し
金融不安 金融危機 ↑↑ 金融危機後退
内部ミクロ要因 NY先物主導型上昇  - 金ETF主導型上昇  - 現物需給だぶつき ↓↓
ヘッジファンド金買い ↑↑ ヘッジファンド撤退 ↓↓ ヘッジファンド レバ外し

このように見てくると、今年の2月に比し、商品高と新興国経済に回復の兆しが見えることが新たな買い材料になってきたが、金融危機後退、株価回復は"市況の法則"を素直にあてはめれば売り材料ということになる。

さらに、底流としては、ドルを中心として通貨不信感が依然根強く、米国債消化懸念はFRB買取額の増加を連想させ、ドル価値の希薄化が懸念される。

そしてヘッジファンドが、すっかりおとなしくなって、ディレバレッジ傾向が顕著である。所謂、投機買いは、以前より迫力に欠ける。

商品高は、投資家のリスク許容度が高まったことで、リスクマネーがうごめき始めた兆しと言えるが、レバを高くできないので昨年の原油暴騰の再現は考えにくい。

新興国経済は、昨日の中国製造業景気指数(PMI)が53.1となったことが好感されている。今朝の日経国際面では"中国景況感 半年ぶり悪化"という見出しになっているが、欧米商品市場では、好不況の別れ目である50を三ヶ月続いて上回ったという解釈で好感されている。なお、同日発表の米国PMIは42.8。事前予想は上回ったが、依然50以下である。

インド経済成長も5.8%で底打ちの気配。本欄5月19日付け"インド株 ストップ高"で詳述したように総選挙で1977年以来という現政権再選が政局安定化期待感を生んでいる。金需要の65%は新興国が占めるので、需要一位二位の中国、インドの経済回復がホンモノか否かは大きなポイントなのだ。

過去2回の1000ドルが結局数日の短命で終わったのも、結局先物買いが一巡すると、新興国のリサイクル売り戻しがジワジワボディーブローのように効いたからであった。

今日見てきたマクロ経済要因、そして昨日吟味した需給要因を総合すれば、足元では需給均衡点を大きく上回るという意味で割高感が強いが、長期的にはドル安、米国債不安という構造要因により株、債券に加え金に分散運用というトレンドが底流として継続すると見る。昨晩も金ETF残高が15トン急増した。株高に乗ってゆくとしても、サブプライムで懲りたので、やはりヘッジは必要ゆえ金も同時に買っておこうという投資家心理が見て取れる。米国債市場はさらに不安だから、米国債を大量に保有する機関投資家のポートフォリオでは、米国債売り、金買いというような運用資産一部入れ替えも見られる。

いきなり1000ドルという水準が固まるとは思えないが、今年後半にかけて徐々に需給均衡点が切り上がってゆくと見る。

なお、先週土曜日の日経社説でも国際商品市場高騰リスクについて書かれている。WGCセミナーでもお馴染みの志田編集委員が論説委員も兼務するようになって、論調にも厚みが増したと感じた。

2009年