豊島逸夫の手帖

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三極通貨から外れる日本円

2009年10月23日

昨日NYの連中と話しているときに国際通貨制度のトピックで三極通貨の議論になった。しかし、どうも話が噛み合わない。筆者はドル、ユーロ、円を想定して語っていたのだが、彼らはドル、ユーロ、人民元を暗黙の前提としているということに、ハッと気がついた。たしかに、ここ10年の準備通貨のシェアを見ると、ドルと円だけが長期減少傾向にある。

一方、中国はテスト的にロシアやブラジルとの貿易決済をお互いの自国通貨で行う案などを提唱して、人民元のステータスを高めようと試みている。北京のエコノミストの間でも、現状の為替管理や人民元高抑制策を排して、人民元の国際化を進めるべきというような議論も散見されるようになった。とはいえ、昨日発表の中国GDP成長率統計を見ても、人民高を実勢に任せ容認すれば、公共投資に次ぐ牽引力の輸出部門が痛むことは必定。事実、中国当局は人民元のドルペッグを公式に放棄したとはいえ、ここ1年ほどは実質的にドルペッグに戻り、人民元高を人為的に抑えている。だからこそドル買い、人民元売り操作の結果、米ドル中心の外貨準備が2兆2000億ドルにまで膨らんでいるわけだ。

さて、中国の経済成長率だが、案の定8.9%という高い数字。そして、案の定、公共投資主体で、消費に不安を残す。経済のハードの部分が引っ張るのだが、ソフトの部分(年金制度などの社会福祉)が薄い。中国に行くと、郊外にほとんど空家同然の団地群を見かける。器は出来ても、入居するに足る個人の経済力が無い。コネがないと入れないなどの問題があるのだ。ここが計画経済の難しいところで、ハードが先行するが、ソフトが追いつかないという結果になりがちだ。

以前、ジンバブエに行ったときのこと。公共投資で学校が至るところに建設されたが、先生が絶対的に足りず、空家同然の学校ばかりという光景に出くわした。まぁ、器は短期間に建てられるが、先生の養成とか、年金、医療制度の構築は一朝一夕には出来ないからね。どうしても短期的には、マクロ経済の視点で見れば、供給、生産過剰に陥りがちになる。

今の中国経済の実態は、工場などの器とおカネはだぶついているのだが、先行き不安で、個人が安心してモノを買えるような消費者心理にはなれない。供給過剰のデフレ要因と資産インフレが並存している。紙一重で、政策のサジ加減では、どちらに転んでも不思議ではない。

金融政策も煮え切らず、資産バブル回避のために銀行融資を抑制する姿勢を見せるかと思えば、その抑制策が抜け穴だらけ、という実態になっている。「不動産融資も、セカンドホームに関しては条件がきつくなっているんだろ」と尋ねたとき、「コネがあれば、どうにでもなるさ」と言っていたっけ。仮に発覚しても、当局は見て見ぬふり、というのが中国流金融緩和策だ。

そもそも、ルールは破られるためにある、という感じだからね。一般道を車で移動するときに、日本人としてひやりとするのは、歩道がなく、かなり広い路肩を歩行者が歩いている。そこで、車が先行車を追い抜くときに、路肩に猛スピードで突っ込むのだ。歩行者のほうも慣れたもので、サッと避ける。

さて、足元の相場であるが、ドル売りエネルギーの捌け口が、外為市場では円買いからユーロ買いにシフトし、商品市場では金買いから原油買いにシフトしている。ユーロは1.50を超えたところで、EU圏経済がどこまでユーロ高に耐えられるか。すでに猿虎児、(おっと、変換したらおかしな漢字が出てきたが)、サルコジは「ユーロ高は壊滅的」などと発言している。ECBが当面市場介入する気配はないが、まだまだ景気回復の兆しが見えた程度の段階なので、際限なく放置は出来まい。

原油はオプションが波乱要因になってきた。原油を80ドルで買う権利=コールオプションを売った(つまり80ドルで原油売りますよ、という約束をした)オプションディーラーが、権利行使されることに備え、慌てて買いヘッジを入れたことで80ドルを突破。しかし、それが一巡すると、需給に不安感が残る。これが仮に70ドルにまで下がると、今度は70ドルで買う約束をした(プットオプションを売った)ディーラーたちが青くなり、売りヘッジに走ることになる。
結局、オプションディーラーにとっては、75ドルくらいが最も居心地の良い水準になっている。ちなみに、先週時点で12月限で80ドルのコールオプション残高が約140,000枚。70ドルのプットオプションは約157,000枚ほど。

金は新規材料無し。引き続き、上値重し。NY先物買い残が過去最高を毎週更新しているが、いずれ臨界点に達する。長く金を持つ人たちではないからね。あまり勢いに流されないように。

最後に、昨日の日本の財政規律を憂う一稿は、びっくりするほどの反応があり。夜便でグッタリして普段の自己抑制が効かない状態で筆が走るままに書いたからかな。でも、本音だよ。

2009年