豊島逸夫の手帖

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LかUかVかWか~か パート2

2009年6月3日

今日は、本欄4月20日付け原稿の続編。その際、今後の景気動向シナリオについて、筆者は変形W字型(Wの最後が~~~)を見ていると書いた。

フィナンシャル・タイムズに、ジリアン・テットという名物女性コラムニストがいる。たしか、比較人類学の世界から金融記者に転進したというキャリアの持ち主である。その彼女が先週書いたコラムの見出しが、"Recovery of economy is not as simple as V, U or W"=景気回復はV、U、Wというシンプルなものではない。要は、Wの後半が直線に近くなる変形を予測している。その要旨を以下にまとめた。

(要旨)
政府の援助で当面、金融危機再勃発は考えにくい。そして、中央銀行の超金融緩和政策を見るにデフレも考えにくい。モルガンスタンレーによれば、今の時点で、実は、世界の過剰流動性はGDP比で過去最大水準に達するという。しかし、公的サポートが破綻を回避させても、景気のリバウンドが力強いものになるという保証はない。重要なことは、まだこれからやらねばならぬ大量のディレバレッジ(レバレッジ外し)とかリストラが残り、そのクレンジング(垢を落とす)の過程は今後何年もかかろう。

とくに欧州では債務過剰でリストラが必要な企業が多い。米国では消費者の巨額の債務返済がまだ始まったばかりである。そして大西洋の両岸に亘り、政府の支えでかろうじて生き延びている銀行が相変わらず多い。そして国債市場では、巨額の発行に対し充分な買い手が出てくるのか不安感が募る。ゆえに、今後数ヶ月はsmall rebound(小さなリバウンド)でWの前半の部分になろうが、その後は Wの後半がフラットに近い形になる、つまり、長くボコボコした道が続くと思うのだ。リフレとデフレの相反する力が互いに引っ張りあうような状態となる。

しかし、このシナリオは実は楽観的に過ぎるかもしれない。もし国債入札が不調に終わるとか、なんらかの政治不安が勃発すると、もっと暗いシナリオ、つまり政府の資金援助に対する信頼が崩壊するというケースが考えられる。そうなると通貨波乱、銀行騒乱となり、政府が銀行を支えられるかについて投資家が不安を感じるようになろう。このような国債危機(government bond crisis)が首尾よく避けられたとしても、先述した変形W字型程度で何とか収まってくれて御の字とせねばならぬ。
(以上)原文は → http://www.ft.com/cms/s/0/303ab4a8-4bb2-11de-b827-00144feabdc0.html?nclick_check=1

足元のマーケットでは株式市場は楽観論が拡大中だが、債券市場は悲観的である。昨晩も米国債市場で、2年ものと10年ものの利回り格差(spread)がNY時間午前中に277bp(2.77%)と一時過去最高水準275bpを更新した。2003年以来の高水準である。これは本欄5月29日で詳説したところのイールドカーブが際立って立っているということなのだ。長期金利上昇は景気回復に冷や水を浴びせるが、長短金利格差拡大は長期的なインフレ懸念の兆候と看做される。正に、デフレとインフレのせめぎ合いではないか。

そしてWSJ(ウオールストリートジャーナル紙)は、ボストンの著名ヘッジファンドの二つ(PallotaとNoble)が解散を発表したと報じてマーケットの話題になっている。パロッタ氏はヘッジファンド名門のTudor出身で、バスケのセルティックスのオーナーの一人でもあったほど現地ではお金持ちで有名。ノーブル氏はフィデリティー出身。パフォーマンスは、厳しい昨年を何とかチャラで切り抜けたが、今年に入り株価上昇にも関わらずマイナス30%を出してしまった。(ショートしてやられたのかね...)。WSJは、この出来事をanother sign of the relentless shakeout in the hedge fund industry(容赦なきヘッジファンド業界激震の新たな兆候)と書いている。原文は→ http://online.wsj.com/article/SB124397181744578265.html

さて、金価格が1000ドルに迫ると一般の関心も当然高まります。今夜のワールド・ビジネス・サテライトでは金特集。今日午後に事務所にクルーが取材に来るそうで、内容は不明。自分としては釘刺しコメントするつもりだけど。さてどう編集されるか。

明日(6月4日)は、日経CNBCの夕方5時(再放送8時すぎ)のデリバティブ番組が、予定を急遽変更して金価格動向をテーマとすることになり、生出演して話します。こちらのほうは十分に語れる時間枠があるでしょう。

それから今週末は札幌でセミナー。来週末は仙台。その後には東京で日経主催プラスワンセミナーと、今月はタイミング良くセミナーが続きます。

2009年