豊島逸夫の手帖

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ショーミー マーケット

2009年3月3日

昔、森川由香里の♪ショーミー ショーミー 胸の奥の.........♪という歌が大ヒットしたが、昨日のNY株はショーミー相場と命名された。もっと胸の奥に秘めた全てを見せて、という催促相場である。何の全てかと言えば、AIG保有不良債権のこと。

すでにAIG決算については朝刊でも報道されているが、史上最大の企業損失とか、アリコ、AIAをFRBがSIVの受け皿で引き受けるということよりも、記者会見でのAIGのCEO発言"これで終わりとは言えない"の一言がNY株の下げを加速した。昨年末の未曽有の公的資金投入で乗り切れるかと思いきや、今回の巨額損失。比べれば、昨年の損失額など可愛いものである。そして、これが全てではない、という。いったいどこまで公的資金をつぎ込めばいいの?その実態を早くショーミーというわけである。

AIGは資産売却も急がねばならぬ。その買い手として名前が上がっているのが、バンクオブチャイナとか中国の政府系ファンドCICなど中国系。元々上海が起業の地であったゆえか。他にもAIGは世界一の航空機ボーイング727の所有者でもある。この航空機リース事業部門にもシンガポールの政府系ファンド=テマセク、プルーデンシャル、マニュライフ、そしてカーライルなどの名前も見える。

このように実質的解体が進行してゆくのだろう。そして、心配なことは、多くの欧州系銀行がAIGのCDS(債務不履行保証)を利用していることだ。AIGがこければ、欧州系銀行もこける、という御馴染のリスクの連鎖である。ここにAIGを震源地とするシステミックリスクが存在する。

故に、ここではどれだけ公的資金投入しても、破たんという最悪の事態は避けねばならぬ。不安心理を反映してVIXも46から52まで跳ね上がってきた。
NY証券取引所にはcapitulationという全員が絶望の中で投げ売るセリングクライマックスの雰囲気が漂う。

この金融危機の中では、さすがのオマハの賢人バフェット氏も無傷とは行かなかった。"私はdumb things=馬鹿なことをしでかした"と最新のレターで告白。これが話題になっている。Dumb thingsの中味とは、
―コノコフィリップス(エネルギー株)をエネルギー価格のド高値で買ってしまった。"その後の原油急落は全く予想できず、dead wrong=完全に読み違えた。"
―アイルランドの二銀行の株式を割安と思って購入したが、結果はマイナス89%。
―そして、問題視されているのは株のプットオプションを売ったこと。SP500、FTSE、Nikkeiなどの指数を一定水準で買い取る約束をしてしまったのだ。ただし、超長期で期日は2019年と2028年。長期投資家の彼としては、長期には株が反転するという確信から、このデリバティブ契約にコミットしたわけだ。しかし、今や、その評価損は5000億円に達する。オプションは買ったほうのリスクは限定される代わりに、売ったほうは無限のリスクを負うからやばい。"デリバティブは金融の世界の大量殺戮兵器"とまで述べた彼が実はそれにはまってしまっていたのだね。
―それでも、昨年の彼の(バークシャー ハサウエー)のパフォーマンスは、マイナス9.6%。同時期のSP500のマイナス27.4%よりは遙かに宜しい。これで金融危機を凌いでいるという評価になるのだろう。
―なお、彼は米国債バブルについても触れ、歴史の教科書に1990年代のインターネットバブル、2000年初頭の住宅バブルと並んで記述されるような出来事になろうと述べ、この時期にキャッシュとか米国債にしがみついているのはterrible policy=ひどい運用方針、と決めつけている。

さて、足元の金価格は、株がこれだけ暴落すると、色々な投資家の追加証拠金捻出のための保有資産売却に巻き込まれる。毎度のことである。さらに、先日も述べたが金ETFにも足の短いマネーが"ディレバレッジ"トレンドの中で、レバがかかっていないETFに流入したため、早くも浮動株主的な金ETF保有者の売りも散見される。加えて、1-2月のインド金輸入が1.9トンという数字が先週末から外電で流れている。920ドル台まで下げているが、調整期がいましばらく続きそう。これは"健全"な調整だと思う。やはり、ヘッジファンドの解散、清算に伴う強制的資産売却の洗礼を受けないと、今の水準はまだ固まらないと感じる。

今日は野村証券土浦支店で、またまたアウエーのセミナー。なぜ土浦?かと言えば、私の父母の故郷だから。親類縁者に頼まれ講演です。

2009年