2009年10月2日
10月に入って、マーケット全体にイヤーな感じ、である。不況脱出のために緊急投与したステロイド効果が明らかに切れ始めている。米国で燃費の悪い車の買い替え支援策が8月下旬で切れた途端に9月の自動車販売は急減。住宅も耐久財も個人消費も、そして雇用も、米国マクロデータは経済の息切れを示唆している。
これまで景気回復期待感で買われてきたNY株も3月の底から5割近く戻したところで上値は重い。昨晩はダウが200を超す急落。もはや期待感で買われる段階は終わり、マーケットは景気回復の証しを求めている矢先のマクロデータ悪化は効いた。
日本では短観で景況感2期連続改善と発表された日に、日経平均は10000円割れ。マーケットは短観を信じていない。EU圏も失業率が9.6%に悪化。ドイツの総選挙でメルケルが勝利したが、膨張する財政赤字と景気浮揚の狭間で当局は微妙な舵取りを迫られる。ドイツの金融システムも今や欧州圏の他国に比し脆弱とさえ言われるまでになった。金融不安が特に中小企業の財務を直撃している。ドルからユーロにシフトしたマネーが、再びドル回帰の兆しも見えてきた。
こういう時にドル高になるのは、ドルが安全通貨あるいは避難通貨として買われるからと説明される。筆者にはドルは「非難」通貨としか思えないのだが、この場合、ドルにマネーが流れるのは、やはり流動性が豊富である(liquidity)という理由によるのだと思う。マネーは水量の豊かな池を好むものだ。日照りが続くと干あがってしまう池では困る。
そういう点ではドルという池の水量は群を抜いているし、その中でも米国債市場の流動性は他の追随を許さない。10年物米国債の利回りが、いつのまにか3.1%台にまで下落していることは、マネーが明らかに株から債券に流れている証拠と言えよう。
さて、そこで読者が疑問に思うのは、金も「安全資産」とか「避難資産」とか言われるので、ドルと金とどちらが「安全」なの、ということではないか。流動性=池の水量の豊かさという点から言えば、ドルに軍配が上がる。金という池の規模は、外為という池に比べれば遥かに小さい。
一方、ドル建て資産には、株でも債券でも預金でも信用リスクがついてまわる。債務を履行するという約束事の上に成り立つ通貨や資産の宿命であろう。その点、金の信用リスクはゼロと言える。専門的に言えば、liquidity(流動性)ではドルが優り、solvency(債務返済能力)では金が優る。そもそも金は誰の債務でもないのだから。
「安全資産」とか「安全通貨」という言葉は一人歩きして、いつのまにか「元本保証」とか「損をしない」という「安全性」と混同されることも、とくに初級者の個人投資家の間には見られる。プロやメディアでも、「安全」という言葉を安易に使う傾向がある。「安全」という言葉を誤解することが、最も安全ではない=危険なのだ。
さて、話は冒頭の「イヤーな感じ」に戻るが、10月は荒れる月である。一時 活動再開の気配を見せたリスクマネーも、やっぱりヤバそうと、またぞろ模様眺めを決め込んでいる感じだ。株からも商品からも同時にマネーが逃げてゆく。金も連れ安局面がありそうだが、そこは筆者が一転強気になる時でもある。手ぐすね引いて待ってますよ。
最後に、今週は総選挙のあったドイツに注目して細かくフォローしていたのだが、ちょっと興味持ったことは、ドイツで高速道路有料化、あるいは高速道路料金引き上げの方向に動いていること。同じく総選挙後に日本とは全く逆だ。その趣旨は、渋滞を減らし、とくに重量車両中心に温室効果ガス抑制を図るというもの。それから、財政赤字の削減。来年のドイツ財政赤字は1000億ユーロと見込まれ、これまでの最高であった400億ユーロ(東西ドイツ併合にかかるコストで赤字が膨張した1996年のこと)を遥かに上回る。
うーむ。そうして見ると、日本における温暖化ガス25%削減と(大渋滞必至の)高速道路無料化の同時進行は矛盾しているわけだ。個別の政策で外交的受けや選挙民の受けを狙うと、あとの辻褄合わせが大変なのだね。
そう言えば、国会の野党質問(糾弾)で雄弁を揮った著名代議士諸氏が、大臣になってからの記者会見で「その件に関してはコメント差し控えさせていただきます」などと歯切れが悪く、バツの悪そうな笑いを浮かべているのが、かなり寂しい。