2009年1月22日
19日付けの本欄で、ロシアおよびその周辺諸国の経済構造が脆く、金融危機の影響をまともに受けやすいことについて注意を喚起したが、FT(英フィナンシャル タイムズ)紙が21日付けで"東欧に高まる債務不履行懸念"と題する記事が載った。
一国が借金を踏み倒すというデフォルトは、今回の金融危機でも、まだエクアドルとかセイシェルなどの小国に二例あるだけである。あのアイスランドでさえ、ソブリン(国の)デフォルトは回避している。(ソブリンという言葉もこの議論で良く出てくるが「国の」という意味である。グロソブ=グローバル ソブリン ファンドを持っている人たちはソブリン リスクというとギョッとするかもしれないが...)。しかし、一方では膨張を続ける米国国債に対し、果たしてまともに償還できるのかという議論の中で、米国のソブリン リスクさえ語られる時代である。(まさか米国が踏み倒すことはないが、インフレ政策で借金の価値を実質減価させることは現実的な政策の選択肢である)。今朝の日経朝刊国際面でも"中国で米国債売却論"という記事が載っているが、背景は、つまるところ米国のソブリン リスクと心中したくないという、北京サイドの懸念であろう。
さて、話をロシアと東欧に戻そう。ロシアは1998年8月のロシア経済危機の中で、IMFからの大型支援を取り付けた直後(3週間後)に、もはや国として借金を払えませんという、ソブリン デフォルト宣言をした前歴がある。およそ、個人でも国でも借金を踏み倒すときは、最後まで"大丈夫、なんとかなる"と言い張るものだ。そして、借金が積もり積もって臨界点に達したときに、突如ギブアップ宣言をする。だから、今回も、ハンガリーとウクライナがIMFによる救済措置を受けているが、だからといって安心は出来ない。
ロシア周辺諸国に共通する経済構造の脆さの最大の原因は、同地域全体で見ると、経常収支赤字と国の債務の合計がGDPの18%に達すること。比較のため見ると アジアや南米は8%程度である。
そして、これらの国々は、世界的信用収縮で資金調達のルートが閉ざされた現状の中で、今年、巨額の債務の返済期限を迎える。ロシアの45兆円(相当)はケタ違いの規模だが、ウクライナもハンガリーも、それぞれ2.7兆円、1.4兆円の返済が迫っている。
その結果、同地域内からの資金逃避が加速。昨年9月の金融危機勃発以来の株式値下がり率は、ロシア、ポーランド、ハンガリー、チェコ、そしてトルコと50%前後という数字が並ぶ。通貨下落率も、対ドルでウクラウナの40%を筆頭に、ポーランド、トルコ、ロシア、ハンガリー、チェコの順で、いずれも20-30%の下落幅を記録している。ソブリン デフォルト リスクをヘッジするためのCDS(クレジット デフォルト スワップ)のコストも過去最高値を更新中だ。(横文字が並んでしまったが、読み流してください。この種の議論になると適当な訳語が直ぐに頭に浮かびません。)
こうして見ると、世界金融危機第3幕は、ロシアあるいはその周辺が震源地になるかも、という筆者の議論の背景がお分かりいただけると思う。先日、知りあいの女性から、ロシア関連のポートフォリオを抱えているのだが、どうしたらよいものか、と尋ねられた。筆者の答えは、直ぐに売却処分して忘れろ、であった。