豊島逸夫の手帖

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中国からのレポート

2009年10月20日

週末は第二の故郷、福島で、ラジオ福島の30分番組に出演。そしてゴルフ場へ。そこで通った「農道」は、東京の自宅近くの池上通りと大して変わらない立派な片道一車線で、なんとインターチェンジのような立体交差まである。しかし、走行中に対向車を見ることは遂になかった。

二日後には中国。そこでは、超大型財政出動の一環と思われる大規模な高速道路工事が進行中。完成すれば交通量も半端ではないことは容易に想像がつく。成熟経済と成長経済。公共工事の効果が、これほど違うものか...。

中国では、銀行貸出の急増と未曾有の財政支出、そして人民元高の速度にブレーキをかけるための中国人民銀行によるドル買い、人民元売り(このスムージング・オペレーションの結果、外貨準備は2兆ドルを超して、さらに膨らむばかりだが)のトリプル効果で、民間の過剰流動性が確実に活動を開始している。

ただし、米国の住宅バブルと根源的に異なるのはレバレッジがかかっていないことだ。つまり、多くの個人が、年収とは不相応なローン組んで身の丈以上のマイホームを購入するというような状況ではない。さらに、地域的にバブルっぽい処と、そうでない処と、まだら模様だ。株式投資家といっても、まだまだ限定的な層である。総じてバブルという雰囲気がまだ感じられない。しかし、政府が経済のかじ取りを少しでも過てば、たちまちバブルが拡大する危うさは感じる。旧火山というより、やはり活火山である。いつ噴火してもおかしくない。

さて、中国から世界を見ても、マネーが動き始めた実感があるね。金利がタダ同然のドル資金がばら撒かれて、しかもドルの先安感が強まるとなれば、ここはドルを借りて株、ユーロ、資源国通貨、原油、金、なんでも買い増してゆこうと投機筋が思うのは当然。(いわゆるドル・キャリートレーダーが暗躍しているという報道が乱れ飛ぶが、キャリートレーダーなる具体的投機集団など、いまだにお目にかかったことがない。キャリートレードという運用手法は、昔からプロのトレーダーが常套手段として日常的に繰り返してきたことだが、とくに目新しいことではない。そもそもプロのトレーダーは自腹で相場を張るわけではなく、マネーマーケットから資金を調達してポジションを取るわけだ。彼らがドル建て国際商品を買うに当たって、ドルを借りるのは当たり前。どうもキャッチーな用語が独り歩きして、個人投資家の心を妖しく動かしている感じだ。)

ちょっと脱線したが、マネーが動き始めたもうひとつの兆候はヘッジファンドへの資金流入。今年第二四半期までの一年間は解約による資金流出が続き、3300億ドルも減少したが、第三四半期には110億ドル程度ではあるがネットで資金流入に転じたという。ヘッジファンドの市場規模も1.43兆ドルから1.51兆ドルに増加。ただし、50億ドル以上の大型ヘッジファンドは総じて資金流出が続き、5億ドル以下の中小ファンドは資金流入という対照的な構図になっている。ヘッジファンドにはインサイダー疑惑なども浮上しているが、あくなきアルファの追求は止まないようだ。

ただ、筆者がどうしても気になるのは、実体経済が悪化して足下ではデフレ傾向が顕著なのに、資産価格だけが先行して上がっていること。量的緩和政策の合併症と言ってしまえばそれまでだが、どうも健全な上げには見えない。囃しているのは業界だけのような気がする。

最後に、昨晩バーナンキさんが講演で、中国人にはあまり貯蓄ばかりせずに、もっと消費してもらいたいというような趣旨の発言したらしいけど、そんなこと言ったって年金も健康保険も無い人たちが将来の不安からおカネ貯めることを非難もできないよね。とにかく中国では病気できない。病院の診察予約票みたいなものにヤミで高値がつくほどだから。高速道路の発展とは対照的な社会福祉の遅れも痛感させられる。筆者は不整脈の持病を持つので、当地では夜遊びなどせずに、出来るだけおとなしくしているわけ。

2009年