2009年11月24日
米金融情報誌バロンズがオバマの「通信簿」を掲げている。景気対策=D、住宅所有者支援=Cマイナス、 自由貿易促進=F(落第点)と、厳しい評価である。オバマに対する支持率も67%から49%にまで低下中。
じつは21日に発売された日経マネー誌22-23ページの筆者新連載コラム「From ゴールド To ワールド」で、金価格は中央銀行にとって通信簿のようなもの、金価格上昇はバーナンキの通信簿が良くないことを意味するということを書いたのだが、ドル安はオバマの通信簿評価を表すのだろう。
(なお、この新コラムは、筆者の書くものゆえ、金に限らず経済やマーケット全般について語ります。そこで、扱ってほしいトピックなどあれば是非意見を聞かせてください。同誌巻末にアンケート葉書がついていますから。今後執筆の参考にしたいと思います。すでに次号の原稿をどうしようかと思案中。)
さて、連休中もNY金価格は1170ドルまでつける急騰。市場内では、NY金先物市場内に大量の残高がある12月物のコールオプション(1200ドル)が波乱要因として指摘されている。じつは、これと全く同じ問題が1000ドル突破の時に見られたので、著書「金を通して世界を読む」の91-93ページに詳述した。まさか1200ドルが現実的な数字になるとは思わず、軽い気持ちで、1200ドルで売る約束をしてしまったオプショントレーダーの不安な精神状態が、金価格上昇を増幅させている。そこに書いてあるように、オプション取引は金価格のトレンドを形成するものではないが、トレンドを増幅させる効果を持つので大台突破の時の思わぬ推進力になったりする。
それから、連日の金価格史上最高値更新のニュースがさすがに一般メディアでも報じられるところとなり、一般個人の反応として、「これって、原油とか穀物とか、私たちの日常生活に直接影響のあるモノの価格がこれから上昇する前兆なの? でも、今はインフレどころか、デフレじゃないの?」という素朴な疑問が寄せられている。もっともな質問だと思う。
今年の場合は、昨年のような原油価格暴騰の兆しはない。物価上昇どころか物価下落傾向が顕著だ。要はデフレっぽいのだが、それでも金価格が急騰しているのは、そのデフレ対策として未曾有のインフレ政策が導入されているから。冒頭に紹介した「From ゴールド To ワールド」のコラムでも書いたのだが、デフレを防ぐためにFRBが未曾有の規模でマネーじゃぶじゃぶ作戦を展開しているので、その後始末が大丈夫かしらと、マーケットは心配しているわけだ。
足元だけ見れば、デフレ感一色。でも、バーナンキがマネーの蛇口をちょっと緩め過ぎれば、気がついてみれば、100ドル札、あるいは10000円札で買えるモノが減っているという通貨価値の希薄化を招きかねないということだ。逆にマネーの蛇口を締めすぎれば、デフレ・スパイラルになって、ふたたび破たんリスク、信用リスクが高まるので、「質への逃避マネー」が金に流入することになる。どっちに転んでも金は買い、という市場心理が働いているのだと思う。
それから金は原油、穀物と異なり、日常生活との接点が少ないということが、じつは金が買われるもう一つの大きな材料になっていることも見逃せない。原油、穀物価格が投機マネーで乱高下すると市民の生活が困るということで、米国では商品先物取引に規制がかかりつつある。でも、金だけは例外。金価格が上がって困る人は少ない。そこで機関投資家の資産運用の中で、コモディティー(商品)分野に廻されている部分が原油、穀物から金にシフトしているのだ。
最後に、足元のマーケットはNY株も金も同時急騰の過剰流動性相場の様相。でも原油価格は77ドルに貼りついたまま。原油急騰によるインフレの心配は感じられないが、資産価格が上昇するマネーのインフレの匂いは感じられる。実体経済が縮小均衡に向かっているときに、通貨だけ増発されてゆく。しかも銀行の貸し渋りなどで、そのマネーが融資の形で市中には出回っていない。専門的に言えば、マネタリーベースは急増しているが、マネーサプライはさほど増えていない。結局、銀行は余ったカネの運用先に困り、国債ばかり購入することになる。だから国債バブルなどと言われる。
庶民の預金が融資などの生きた活用をされなければ、結局、国の借金の尻拭いに使われるだけだ。この経済の根源的不安要因が解決されなければ「不安係数」と言われる金価格は高止まりすると思う。