2009年4月7日
海外金価格は860ドル台へ急落。ドル円は101円へ円安ドル高。金価格1000ドル達成で殺到した諸メディアのインタビューで、一貫して短期弱気、長期強気説を展開してきたが、問題は、目先どこまで下がるか。
そこで、マクロ市場環境を吟味するために、今週発売の週刊エコノミスト誌"2009年度全市場展望"の原稿の中で使用した表をご覧いただきたい。昨年、今年の1000ドル達成時の比較である。
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2008年3月17日 |
2009年2月20日 |
NY金先物価格 |
1,002.5ドル |
1,000.5ドル |
金ETF残高 |
826トン |
1,272トン |
NY金先物残 |
610トン |
516トン |
原油価格 |
105ドル |
38ドル |
ドル円 |
96円 |
93円 |
ユーロドル |
1.57ドル |
1.28ドル |
ユーロ円 |
152円 |
119円 |
NYダウ |
11,972ドル |
7,365ドル |
ドル長期金利
~米国債10年もの利回り~ |
3.30% |
2.70% |
ドル短期金利
~FRB政策金利~ |
2.25% |
0.00-0.25% |
中国経済成長率 |
11%台 |
6%台 |
VIX指数(別名、恐怖指数) |
32 |
49 |
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これを金価格変動要因としてまとめるとこうなる(矢印は金価格への影響の方向性と強さを示す)。
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2008年 |
2009年 |
マクロ要因 |
ユーロ高、ドル安 |
↑↑ |
ドルもユーロも円も不安 |
↑↑ |
原油高騰、インフレ懸念 |
↑↑ |
原油、商品価格低迷 |
↓↓ |
株価懸念 |
↑ |
株価暴落 |
↑↑ |
金利下落傾向 |
↑ |
ゼロ金利、通貨増発懸念 |
↑↑ |
新興国経済非連動説 |
↑ |
新興国経済連動して急減速 |
↓↓ |
金融不安 |
↑ |
金融危機 |
↑↑ |
内部ミクロ要因 |
NY先物主導型上昇 |
- |
金ETF主導型上昇 |
- |
ヘッジファンド金買い |
↑↑ |
ヘッジファンド撤退 |
↓↓ |
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この表の詳細な説明については同誌を読んでいただくとして、まずは、今年の金市場には、かなりの逆風も吹き荒れていることを念頭に入れておこう。その上で、目先の材料を以下に列挙してみた。
◎GM破綻の可能性
昨日のテレビ東京のニュースFINEでも語ったことなのだが、このシナリオが現実のものになると、足元で持ち直し気味の株価が再びカウント8(エイト)のダウンを喫することになり、リスクの連鎖でヘッジファンドにも破綻が生じる。ファンドの清算、解散による運用資産売却の波に金市場も晒される。
◎米国銀行資産査定(ストレステスト)の結果
最新の情報では、結果が明らかになるのが来月にずれこみそうだが、この結果が良くないと再び金融株が売られる。昨晩、著名エコノミストが米銀に悲観的見通しを発表しただけでダウが大きく下げたことからも、マーケットは依然、非常に神経質である。ヘッジファンドは、足元の株価上昇でパフォーマンスも何とか一息ついて、顧客の解約ラッシュも一段落の気配だが、それもこれも株価次第。G20で規制強化も合意され、ヘッジファンド縮小の動きは止まらない。
◎IMF金売却
これは、金市場内では、かなり織り込み済みなのだが、昨日テレビ局の経済スタッフの人たちと打ち合わせしていると、"へぇー、そういうこともあるんですか..."という反応。まだまだ金市場外では新鮮な材料なのだと改めて感じた。ゆえに一般個人投資家への心理的効果は無視できない。
◎インドの金輸入1-3月はほとんどゼロ。
これはかなり注目すべき材料である。金需要の6割以上を占める新興国の経済減速が如実に表われている象徴的な例と言えよう。問題は5月に婚礼シーズンを迎えるインドの花嫁の父たちが、いかに可愛い娘のためとはいえ、"ない袖は振れない"というほどに負の所得効果が顕在化するか否か。少なくとも、これまで花嫁一人当たり平均200グラムとか言われた持参"ゴールド"の量が、100グラム以下になることは充分に考えられる。
◎金ETF市場の内部的変貌
金ETFの驚異的成長が今年の金価格上昇の強力な推進力になっているが、その市場成熟化に伴い、市場内部にも大きな変化が見られる。これまでの年金中心の長期保有型の買いに加え、ファンドのような足の短いマネーも参入してきていることだ。その背景にはレバレッジ外し(ディレバレッジ)でレバのかからない金ETFが選好されているという事情がある。こうなると、金価格が急落した場合、見切り売りが出るのも早くなる。なお、NY金先物買い残高がまだ500トン近く残っていることも、潜在的売りエネルギーの蓄積と言える。
以上、今日のところは敢えて売りの材料ばかり並べてみたが、上記の表でも分かるとおり、強い追い風が舞っていることも事実。ゆえに、金価格は瞬間的に800ドル近くまで続落の可能性があるが、リカバリー(持ち直し)も早いと見る。大崩れして、上げ基調が激変するような状況ではない。
円建てでは、一時の円高が影を潜めているので、海外より下がりにくい地合いだが、仮にGM破綻となれば、海外金安、外為市場では株安=円高となるので ダブルで安くなるだろう。なお、GM破綻は短期的に金価格下落要因となろうが、中長期的には信用リスクが高まることで金価格上昇要因に転化することを忘れてはならない。
それから筆者がいまだに忘れられないことが、バーナンキが米国債3000億ドル買い切りを発表した夜のNY金の反応。880ドルまで下がっていたのに、わずか2時間弱で950ドルまで急反騰した。あのとき筆者は、これで金価格が再び1000ドルに接近、と書いた(
3月19日付 "バーナンキラリーで潮目に変化")。その翌週に、ガイトナーの不良債権買取構想が発表されてから株価も持ち直し、金価格は再び下落に転じたわけだ(
3月24日付"お上からのおいしい話に乗るべきか")。
しかし、3月19日の出来事は、マーケットが米国債買い切りという"資金ジャブジャブ作戦"にいかに神経質になっているかをまざまざと示した例でもあった。これが筆者の中長期強気維持の最大の理由である。