豊島逸夫の手帖

Page705 原油70ドル突破、金は950ドルで一進一退

2009年6月10日

原油は早くも安値から倍の70ドル、それに比し、金の上昇率は昨年の安値から30%程度。昨年も原油は10年間で10倍の暴騰に比し、金の上昇率は1999年の大底250ドルから4倍程度であった。

一般的に原油の値動きは軽いが、金は比較的に重い。その最大の理由は至って簡単なこと。原油は燃えて消えるが、金は腐食せず残るからだ。今回も1000ドルに近づくにつれ、金のリサイクル、売り戻しは加速的に急増し、ジワジワとボディーブローのように効いて価格上昇にブレーキをかけている。

四半期ごとのリサイクルの推移を見ても明らかだ。
2008年 1Q 359トン
      2Q 277トン
      3Q 217トン
      4Q 362トン
2009年 1Q 558トン(前年同期比 ↑55%)

通年でみても
2007年  958トン
2008年 1215トン(↑27%)

さらに、金は商品の中で最もマネー、通貨に近いので、ドルの動きにも原油に比しはるかに敏感である。先週金曜の雇用統計後にドル高に振れたとき、金は2%以上の急落を見せた。最近の外為相場はドル安、ドル高が交互に示現し、トレンドが出にくいので、金は1本調子の上昇軌道にはなかなか乗らない。

逆にいえば、金のほうが下がりにくいことも事実。商品インデックスへの組み込み率が原油等エネルギー関連は7割以上を占めるが、貴金属は3-5%程度と限定的である。ゆえに、原油のほうがヘッジファンドなど機関投資家マネーの売買の影響がより強く働き、一旦下げ始めると売りが売りを呼ぶ"劇場のシンドローム"現象が頻繁に見られるわけだ。

金は生産コストも500ドルから600ドルへ急上昇しているので、それ以下には需給構造的に下がりにくい。たとえその水準を投機売りで割りこんだとしても、鉱山会社の閉山などで供給が減少し、価格の下げが止まる。リサイクルという二次的供給源も安値圏では鎮静化する。

供給サイドを長期的に見れば、原油はその気になれば掘ればいくらでも出てくる。産油国の増産願望をOPECというカルテルで抑えているわけだ。対して、金は、南アで2000メートル掘っても、もはや出てこない。これから有望な鉱脈といえば、多くが海底になってしまう。なお、埋蔵量が原油より広く分布しているので、生産量をカルテルで調整することもほぼ不可能ともいえる。

このように見てくると、同じ商品というカテゴリーではあるが、原油と金はかなり違うことが分かると思う。

さて、その国際商品が上昇しているわけだが、それを歓迎する国もあり、困る国もある。グローバル経済の観点からは、国際商品価格上昇が、資源消費国から資源生産国への所得再配分効果を持つことになる。

傾向的には資源生産国の多くが新興国であり貯蓄率が比較的に高いので、"移転"された所得が退蔵されてしまいがちだ。さらに、ヴェネズエラが典型だが、"移転"された所得を国家が独占してしまうような、いわゆる"資源ナショナリズム"も顕著になる。

他方、資源消費国の多くは先進国であるが、国際商品価格上昇は消費者に"増税"と同じ効果を与える結果になる。景気浮揚のための(特に低中所得者層向け)減税政策の効果を相殺してしまうのだ。サブプライム・ウイルスの汚染度も新興国より高いので、弱り目にたたり目になってしまう。

世界経済が本当の回復軌道に乗るか否か注目される中で、国際商品価格上昇という要因の影響がジワジワ効いている。

ページトップ