豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. シンガポールに集結するロシアマネー
Page759

シンガポールに集結するロシアマネー

2009年10月26日

近年、シンガポールに行くと、ロシア人を頻繁に見かける。同国在住ロシア人人口は6年前300人から現在5000人にまで急増中とのこと。その多くは富裕層。それも超富裕層である。ロシア、カザフスタンの原油、天然ガス権益で財を成した資源マネーだ。

その受け皿としてのシンガポールは、今やアジアの富裕層ビジネスの中核になりつつある。スイス銀行が富裕層の脱税幇助疑惑で欧米諸国の圧力を受け、顧客情報開示に踏み切っていることも、シンガポールへのマネーシフトを加速させているようだ。

しかし、ロシアの資源マネーの本当の目的は、アジアという潜在成長力に富む地域経済へおカネを入れておくという「途上国セクター」への戦略的運用シフトである。筆者が注目しているのは、この例のように、欧米を介さずビッグマネーが動き始めていることだ。

別な例では、中国と南アの関係も注目される。今や、南アの最大の輸出国は中国。(一年前は第五位の輸出国であった)。欧州、日本、韓国からの受注が50%減少したのだが、中国への輸出は35%増えているという。もちろん鉱物資源などの天然資源が主たる品目である。さらに資本取引も活発化している。2年前には中国大手銀行のICBCが南アのスタンダード銀行の株式20%を取得。最近では中国系投資マネーが南アの財務基盤の脆弱な中堅鉱山会社に食指を動かしている。

南アの通信、運輸などのインフラ投資に興味を示す中国マネーもある。ケープタウンの団地建設に出資する中国系会社も出てきた。しかし現地の警戒感も強い。中国による「新たな植民地支配」を懸念し、中国製繊維製品の輸入制限を発動したケースも2年前には見られた。

しかし、長期的には、メジャーな資源生産国南アとメジャーな資源消費国中国の直接的経済関係が強まることは当然の成り行きであろう。今後、このような欧米をバイパスする交易の決済はどの通貨で行われてゆくのか。

ジャパン・パッシング(日本外し)ならぬ、ドル・パッシング(ドル外し)の長期的流れは、必然的に代替決済通貨の問題を生む。ユーロは寄り合い所帯通貨の根源的問題を孕むし、SDR(特別引出権)(※)は法的通貨(legal tender)ではないし、金本位制復帰などもあり得ない話だし、代替案がいずれも迫力に欠ける。

結局、ユーロという若いガールフレンドとの関係は続かず、ドルという古女房に頼らざるを得ないということを以前本欄で書いて、家族関係者の顰蹙を買ったが、それにもめげず筆者の見解は変わっていない。ただし、資源国通貨による貿易決済が、ドル建て決済より比率的に増加することは間違いないとは思う。


IMF(国際通貨基金)加盟国の既存の準備資産を補完するために、IMFが創設した国際準備資産。SDRの価値は主要4大国・地域の国際通貨バスケットに基づいて決められ、自由利用可能な通貨と交換することができる。 詳細は、こちら(http://www.imf.org/external/japanese/np/exr/facts/sdrj.htm)のIMFのページをご参照ください。
 
2009年