2009年9月14日
先週金曜の夜。NYと電話会議中に騒然となった。ドル全面安の様相となり、金も一時は1010ドルまで急騰。結局1000ドル台で週を終えた。この高価格水準で、さらに一段高を見込む新規買いが入ってきている。ちょうちんつけ組の参入である。とくに米国人個人投機家(長期投資家ではない)が動き始めた。NY先物買い残高は、売りと買いを差し引いたネットで史上最高の698.8トン。124.9トンも急増して、700トン近くに膨張したわけだ。
3兆円の運用残高を持ち、ヘッジファンド業界第3位のポールソンのような処が、今年に入ってからポートフォリオの46%も金ETFとか金鉱株で保有するような話を聞きつけ、米国人投機家が刺激されているのだ。この手の話は、業界内では旧聞に属するようなストーリーなのだが、一般個人に浸透するのは時間がかかるのか。46%も金関連で持ったら、後は売り手仕舞いしかなかろうとも思うのだが。
彼らの売買回転が早い例としては、グリーンライトという著名なヘッジファンドが、やはり金ETFを大量に買いつけたが、すでに売り払っていることが挙げられる。ただ、ポールソンが何故それほど金にベット(賭けた)したのか。その投資行動は考えさせられる面が多い。
彼は、金融危機前にサブプライム関連債券とか銀行株をショート(空売り)し、他のファンドが大苦戦を強いられる中で実績をあげ、一躍注目された。そして、金融危機が後退するや金に運用資金を大量に入れている。
こういう「当たり屋」さんに共通していることで、個人投資家にも参考になることは、彼らが常にマーケットの「リスク」が何処にあるかを意識していることだ。住宅不動産市場に貸し込む金融システムにリスクがあると思えば、その関連の投資媒体を思いっきり売り込み、銀行セクターに対し挑戦状を叩きつける。しかし、そのシステミックリスクをFRBが引き取り(買い取り)、リスクが民から官に移ると、今度は米国政府に対して不信任票を投じる。それがドル売り、金買いというポートフォリオのリアロケーション(再配分)である。
このような「相場の読み」は参考にはなるものの、だからと言って、彼らの後追いをして買いを入れても、その時はすでに遅い。個人投機家が参入してくる頃には、口火を切った彼らは売りに回っている、あるいは売りの機会を今か今かと待っているものだ。まぁ、いずれポールソンが売りに廻るだろうから、そこが長期投資家には狙い目かな。
なお、ちょっと微笑ましいと思ったのは、グリーンライトの創業者アインホーン氏が金に興味を持ったきっかけというのが、子供の頃 お爺ちゃんが「金貨こそ最後に頼りになる」と言っていた家訓だった、という話。最先端を行くヘッジファンドも、お爺ちゃんの教えには素直に従うところが人間ぽくって興味深いと思いませんか。
それから、先週明らかになったことだが、世界最大の金鉱山会社バリック社が安値圏でのヘッジ売りという負の遺産をまだ300トン近く抱え、いよいよその清算に乗り出すという。約定価格が出来上がりで600ドル台の先物売りヘッジ契約を全額買い戻すというのだ。当然、巨額の損失が確定するわけで、そのファイナンスのため大規模増資(3000億ー4000億円)に踏み切るという。
このヘッジ買い戻しに関しては、実行時期、増資額などまだ不透明な部分も多い。もしこれから実行されるとすれば300トン近い買いが出ることになる。昨年1年の中央銀行売却に匹敵する量で、その影響は小さくない。この点はいずれ明らかになろう。
いずれにせよ世界最大の金鉱山が自らのリスクを張って、さらなる価格上昇に賭けたわけだ。これ以上先物売りの含み損膨張には耐えられず、株主の不安も強まるばかりなのだろう。
思い起こせば、2年前の9月に相場が強い上値抵抗線を突破し700ドル台に乗せたときも、買い本尊は豪大手金鉱山ニュークレスト社で、先物ヘッジ71トンを買い戻したのであった。(本欄2007年9月12日付け「買い本尊 名乗り出る」参照)
今回のバリック社は、何時か下がるから、その時に買い手仕舞おうと待っても待っても下がらず、結局1000ドルの声を聞いて諦め、手を打ったのかもしれない。