豊島逸夫の手帖

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金価格史上最高値更新はあるか

2009年9月16日

マーケットが過熱しているときこそ、冷静に潮流を見極めることが必要だ。そこで今日は金価格1000ドルを最初につけた2008年3月14日と今回の比較をしてみよう。

  2008年3月14日 2009年9月14日
 金価格(NY) 1002.5ドル 999.6ドル
 金先物買い残高(ネット) 610.7トン 698.8トン
 金ETF残高 816.2トン 1343.24トン
 WTI原油 110ドル 68ドル
 ユーロドル 1.57 1.46
 ドル円 97 91
 ユーロ円 153 133
 NYダウ 11,951 9,626
 米国債10年物 3.42% 3.40%
 中国経済成長率 11%前後 8%前後

ここから読めることは。

ドル全面安といっても欧米市場のドル高ドル安のベンチマークであるユーロドルのレートを見る限り、まだまだユーロ最高値(ドル最安値)には遥かに及ばない。ドルの対ユーロと対円が乖離していることはクロスレートのユーロ円の違いを見れば明らかであろう。今回、対ユーロのドルレートが1.50の大台に接近、あるいは突破するような事態となれば海外金高も加速しよう。

一方、NY株価は回復したとはいえ、まだまだ昨年3月の水準には及ばない。今回、もし株価がさらに上追いすれば、高値警戒感の強い金から株へのマネーシフトが起きよう。

昨年の金価格1000ドル劇には原油急騰によるインフレ懸念が牽引役となった。今回その要因は欠落している。しかし、原油先物取引に規制がかかり、機関投資家のコモディティーセクターでのリアロケーション(原油→金)が顕著に見られる。これは金価格の下支え要因となる。

金ETFについては、昨年は年金の長期保有が主体であったが、今回はヘッジファンドなど足の短いマネーもディレバレッジ傾向が強まる中で、レバのかかっていない金ETFに流入している。

NY金先物買い残高(ネット)は、昨年3月でも当時の史上最高水準であったが、今回も史上最高を更新した。先物主導、現物は売りというパターンは変わらない。

さて、以上を見て、筆者が気になること。

まず、金先物買い残だが、昨年は600トンにまで膨張したが、10月11月にはヘッジファンドの換金売りで212トンまで急減し、価格も一時は700ドルを割り込んだ。投機買いの新雪がドカ雪として積もると表層雪崩の規模も大きくなる。

金ETF市場では、売りと買いが交錯する状況になった。残高が右肩上がりを続けるパターンは終わったようだ。いわゆる成熟期に入ったと思われる。

ドル安のマクロ経済的背景も激変している。昨年はサブプライム金融危機の震源地としての米国経済に対する不信感、それに対する金融政策も有事対応のゼロ金利という要因であった。

しかるに、今回は金融危機感が後退する中で、有事対応の非伝統的金融財政政策の後遺症としての財政赤字、通貨増発が懸念される一方、米国債大量発行によるドル金利上昇も視野に入る。ドル価値の希薄化はドル安要因だが、ドル金利上昇とか利上げ転換などが現実味を帯びるとドル高に振れる可能性があるのだ。昨晩、バーナンキは「リセッションはテクニカルな意味では終わった」と発言した。もし彼が「出口戦略として利上げも視野」などと示唆したら、金価格が50ドル以上急落しても不思議ではない。事実、彼がFRBによる3000億ドルの米国債買い取りを発表した日に、NY金価格は1時間で60ドル急騰したような例もある。

ガイトナーも今週初めの議会証言で、「有事対応からダメージ修復へ」という経済政策変換モードを強調していた。

その他、中国のバブル要因など新興国要因にまで今日書く時間がないが、ドバイ、ムンバイ、香港などの新興国市場では需給がジャブジャブであることは前回も今回も共通している。

以上、まとめると、目先のドル売りモメンタムが加速すれば史上最高値更新も考えられるが、仮にそうなったとしてもドル安そのものの持続性に「?」が残り、目標達成感とか天井観が出て、投機筋が一斉に手仕舞うと、かなり派手な下げがあると思う。短期的な急騰が派手であればあるほど、あとの急落も派手になると心得るべし。

ただし、過去5年間の金価格グラフを見れば明らかなのだが、短期的乱高下を繰り返しつつも、下値は徐々に切り上がっている。急落して混乱しても、落とし所の水準は900ドル台に止まろう。昨年のように700ドルを割り込むような極端な相場の崩れは考えにくい。

過去5年〜現在
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1978年〜現在
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昨年は株暴落―ヘッジファンド解約の嵐という流れで運用資産全てが、株も金も売られるという局面があったわけだが、今年は違う。拙著「金を通して世界を読む」の24ページのグラフをもう一度見てほしい。鳥の目で見れば、今、金市場は構造変革の真っただ中にあり、新たな需給均衡点を模索している過程にある。その過程ではオーバーシュート(実態以上に価格が上昇)もあれば、アンダーシュートもある。オーバーとアンダーを繰り返しつつ、3年ほどかけて 新たな需給均衡価格に収斂してゆくと思う。

It's a new ball game.=新たなゲームが始まり。今は、試合前半から後半へ入るくらいのタイミングであろう。


2009年