豊島逸夫の手帖

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年金運用の怖い実態 パート2

2009年7月2日

本欄4月21日付けに書いたことが、一般紙でも、やっと一面扱いのトピックになってきた。"年金運用損9.6兆円(昨年度) 過去最悪2年連続赤字"というような見出しが躍っている。

累積損益は1兆9908億円の損失となり、03年度末以来5年ぶりに赤字に転落した。でも、積極運用のカルパースは昨年マイナス29%だから、日本はまだマシであるという議論も併記されている。しかし、カルパースが大幅な累積黒字であることには何故か触れられていない。将来の一年金受給者として怖いのは、大切な年金の原資が株価次第でかくも変動するという事実。

日本の公的年金は国債中心の国内債券に67%も運用配分しているので、歴史的な株安の影響が他国に比し軽微であったというが、この議論も怖い。国債の最大のウイークポイントがインフレ。物価が上昇すれば国債の実質的価値は目減りしてしまう。この長期的リスクに対して、日本の公的年金は全く裸の無防備状態といっていい。

しかも、国債は国の借金証文。その借り手の国は800兆円を超す累積債務を抱えている。この借金地獄から脱するには通貨増発というインフレ政策発動以外、現実的政策の選択肢はまず考えられない。(増税?選挙で通るはずもないでしょう。)

筆者が子供の頃、祖母がよくこぼしていた愚痴を思い出す。"我が家はかなりの資産があって、安全と思われた国債で保有していたのだが、最後にその価値は二束三文になってしまったのだよ。"

結局、大切な年金原資を、年収の10倍近い借金を抱える処が発行した借金証文につぎ込んでいるわけだ。しかも、その借金の使い道が、過去の借金の利息支払いとか、"箱もの"建設とか、膨れ上がった官僚機構の維持などに廻っている。つまり、将来の国家発展に繋がるような建設的使い道には、ほとんど残っていない印象を受ける。 

そして4月21日付けでも述べたが、厚労省が"求めている"運用利回りは4.1%。この数字は、この程度は運用で儲けてもらわないと年金制度が立ち行きませんという発想ではじかれた希望値であり、その算出根拠にマーケット感覚が完全に欠落している。実に虚しい。

記事は"年金運用に国民レベルでの議論が必要"と結ばれているが、これも虚しい。議論するに必要な金融リテラシーをメディアも国民も実際どれだけ持っているのか?国債の"安全性"をどの程度理解しているのか、出来ているのか。債券市場で債券価格が上がれば利回りは下がるという関係をセミナーで説明するとき、聴衆の多くの目は泳いでいる。

どうも、この問題になると、団塊世代の筆者は憤りが先行して、やや感情むき出しの書き様になってしまうね。でも考えてみれば、この問題の最大の被害者は、800兆円のツケが廻ってくる世代の諸君なのだよ。団塊世代は少なくとも800兆円パーティーを楽しめた時期もあったわけだ。

2009年