豊島逸夫の手帖

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金900ドルへ急騰

2009年1月26日

631.jpg2年ぶりのスキーに行ってきました。週末は日本海側に大雪注意報。しかし、気圧配置が"里雪"型だと、山の方の越後湯沢は快晴になります。サブプライム勃発以来、初めてのスキー。越後湯沢の源泉"山の湯"にも2年ぶりに入れて体調絶好調♪ 筆者は仕事には向いていないカラダと痛感。今年は週末セミナーを減らしてスキーに励むかな...(笑)

などど、ブログ調に書き始めたが、先週金曜日に金価格は、(筆者の予想に反し!)、一挙に900ドル近くまで急騰。このように自分で相場が不可解に感じたとき、筆者は"虫の目"ではなく"魚の目"で見る習性がある。そもそもスキーも出来なかった一年前と今で、マーケット全体がどう変わっているか。以下にまとめた。

  2008年1月23日 2009年1月23日
金価格 888 895
原油 86 46
ドル円 106 88
ドルユーロ 1.46 1.29
ユーロ円 156 114
NYダウ 12,027 8,077
米国債10年 3.42 2.61
VIX指数 29 47
中国経済成長率 11%台 6%台
金ETF残高 778 1,046

こうして見ると、金価格はほぼ同じ水準なのに、マーケット環境がなんという激変ぶりか。同じ金価格880-890ドルでも、状況は全く異なる。

原油は、140ドルへ急騰中(インフレ懸念)から、140ドルから暴落(デフレ懸念)へ。
ドル円は、円安ドル高から、円高ドル安へ。それも円独歩高。
ユーロドルは、ユーロ楽観論で急騰中から、ユーロ悲観論で急落。欧米市場ではドル高に流れる。
ユーロ円は、以下の不等式の変化。円<ドル<ユーロから、ユーロ<ドル<円 へ。
NY株は、語るまでもないが、注目すべきはドル長期金利。質への逃避マネーが米国債に流入し、3.42%から2.61%へ。ドル短期政策金利はゼロ金利になった。
そして金融危機でVIX指数は急上昇。

世界的景気後退は中国をもヒットしてGDPは急低下。
金市場内での大きな統計の変化は、金価格はこの一年で乱高下したものの、金ETFの堅調な増加ぶり。

一年前の金価格は888ドルから3月には1000ドルを突破した。
今年もGFMSは、既報どおり、今年前半に1000ドル台回復と予測している。

でも、筆者は、このマクロ経済環境の激変を見るに、やはり高値警戒感を持つのだよね。原油安、ユーロ安(ドル高)という逆風。そして一年前にマーケットを支配したデカプリング(中国と米国の経済非連動)説は脆くも崩れた。

かたや、強烈な追い風も吹く。株安、米国ゼロ金利、金ETF残高急増、そして市場の不安係数と云われるVIX指数の水準が急騰していることは、金融危機の悪化を物語る。

しかし、原油、ユーロ、中国経済成長率が本格的に反騰しないと、金相場の持続的推進力には欠けると思う。900ドル、あるいはGFMSが言うように1000ドルをつけたとしても、それは一過性の"派手な打ち上げ花火"になろう。

唯一、今、日本人が金を買う強い論拠があるとすれば、円独歩高かな。以前にも述べたが、円独歩高ということは、日本人は世界中で最も割安に金を買える国民なのだ。まぁ、筆者は、今のマーケットには乗れないので、スキーリフトに乗って冬を過ごすことにします。(笑)

さて、恒例の週末拾い読み。往復の新幹線ではWSJ、FT、ロンドンエコノミスト誌などの山に埋もれていました。

―筆者御贔屓のガイトナー新財務長官はまだ若いね。いきなり、中国は人民元操作と食ってかかった。まだゴングも鳴らぬうちからワンツーパンチかませるには、ちとタイミングが早すぎないかな。オバマの対中、対ロシア政策は対照的になると感じる。米中関係は、繰り返し述べてきたように"仮面夫婦"。米国の庭先=中南米にもコキントウ首席自ら訪問を繰り返し、ちょっかい出しているが、あくまで天然資源確保が主目的。アフリカ、カスピ海沿岸諸国についても同様。しかし、ロシア(=プーチン)の同地域への介入は、軍事目的もからむ。ゆえに、オバマの対中政策は宥和的、対ロ政策は警戒的なスタンスになろう。

―オバマの大型財政支援については、軸足の置き方で、公共工事推進派と減税派の真っ二つに分かれる。ただし、いずれも実効が出るには最低半年かかるものが多いことが問題だね。オバマは、短期的に景気浮揚に直接的効果を持ち、長期的に米国経済の生産性を上げる政策と言うけれど、その両方を同時に満たすのは無理筋ではないかな。ちなみに、ブレーンの推進役サマーズは、消費拡大、不動産価格てこ入れ、信用収縮緩和の三つをスローガンに掲げている。やはり懸念は、財政出動で輸血しても、金融システムという肝臓腎臓の部分が機能不全だと、せっかくの血液が健全に循環しないことだよね。

―バンカメ首脳陣が公的資金注入を受けながら、贅をつくした社長室とか日常の"セレブ"生活ぶりを暴かれ、非難を浴びている。セイン元NYSE CEOなども、メリル移籍後も同様のライフスタイルだったらしい。筆者のウオール街の友人たちが、ぶうぶう言っていた。(筆者に言わせれば、そう言うあんたたちも年収数億円だったのだから、ぶうぶう言っても説得力ないのだが...)。かのガルブレイス教授は"精神的飢餓"と呼んだが、自分より収入が上の人ばかり見て、自分は(相対的に)貧乏だと感じることが消費減退の主因かもね。

―それにしても、米国は、結果オーライの国。自分でサブプライムウイルスを世界中にばら撒き、それによる金融不安のおかげで"質への逃避"マネーが米国債に集中流入し、米国の借金を賄ってくれている。そして自分たちは、オバマというニューリーダーのもとに、他国に先んじて"チェンジ"の道を歩み始めた。その結果、欧米市場では、相対評価でドルが買われるという展開。

それにしても、NYの連中に"質への逃避"マネーが"円"にも集中とか言われると、我が事ながら、なんとも片腹痛いねぇ...。逃避したいのは、こっちも同じだぜと言ってやった。

2009年