豊島逸夫の手帖

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熱烈歓迎 ヘリコプターベン様

2009年3月27日

NY市場では株も商品もreflation trade =リフレ相場本格化の兆し。Toxic assets=有毒資産と呼ばれた不良資産が、銀行実質国有化とかガイトナー官民共同ヘッジファンド作戦(これは筆者の勝手な命名)により、とりあえずリハビリ施設に入ることになった。同時並行で、ヘリコプターベンちゃんは本領発揮で大盤振る舞いしてくれているのだから、ここは素直に乗ってゆこうよ、というムードである。

昨年の筆者のセミナーに参加された方は覚えておられるだろうか。イラストでバーナンキがシャンパンの大きなボトルを開けている戯画。ほとばしり出ているのはドル札。それを日本流に言えば、(我が家の近くの)本門寺の節分で相撲力士がばらまくマメを皆が争って拾っている感じである。これ、著書の15ページでも書いたことだが、前任者のグリーンスパンは、このシャンペンを経済危機の度に6本は抜いてきた。

問題は昨日も書いたように、そのパーティー会場の後始末なのだが、なぜか米国のメディアにはexit strategy=出口戦略という言葉はあまり出てこない。(欧州や日本のメディアには、しばしば出るが...)

著書("金を通して世界を読む")の42ページ"マネーイリュージョン"の項にこう書いた。"デフレの時代が終わってこれから楽しいパーティーが始まるときにインフレの兆しといわれても人間の心理としては信じたくない。皆がシャンペンで乾杯して、これから楽しいひとときを過ごしましょうというとき ひとり冷静でいられる人間は少ない。"

リハビリ施設収容期間が果たして"たのしいひととき"となるか否かも不透明だが、それよりもリハビリで後遺症が完治できるかが最大の問題。そして昨日、ガイトナーは病気の再発を予防するための独立した金融監督機構を提案。彼の説明を聞いていると、特にリスクの連鎖を断ち切るために、これまでリスク管理の抜け穴であったヘッジファンドと保険会社の規制監督導入を強調している。
これは当然の措置だろうね。

住宅ローンの焦げ付きリスクを嫌った銀行が、それを証券化して他の金融機関などに売りこみ、"リスク分散"を図ったわけだが、蓋を開けてみれば、それを買い取った金融機関のほうもCDSという金融技術を利用して債務不履行リスクをちゃっかり保険会社、それも特に最大手のAIGに転嫁していた。なんのことはない、リスクは分散されずAIGに集中していたわけだ。それをAIG幹部さえ察知していなかった(というか、仕組みを理解できていなかった)。何とも怖い話ではある。

その反省に立っての規制強化が、商品先物市場の投機的売買規制にも及ぶことは昨日早朝に書きかけて眠気に勝てず、尻切れトンボになったことだ。これまで原油と違い庶民の生活との接点が少ない金は規制の対象外とされてきたが、 ひとからげに金も含むことになる可能性も出てきた。これが実は商品先物ではない金ETF残高が今年に入って急増している最大の要因なのだ。

(ここからは、どうしてもカタカナが増えるがご容赦)。
これまで年金など機関投資家の商品セクターへのアロケーション(資産配分)は、エネルギー、とくにエネルギーのウエイトが7割以上の商品指数(インデックス)に連動する投資商品、あるいはマネージドフューチャーズと呼ばれる商品先物で運用するタイプが中心であった。

それが、エネルギー価格暴落、商品インデックスの算出元のひとつがAIGという事実、そして上述のディレバレッジ(レバレッジ外し)の動きが加速化すると、商品セクターでは、非エネルギー、非インデックス、非レバレッジという制約の中で、金ETFのような現物を保管するだけのウルトラパッシブみたいな投信へ、商品セクター内でのリアロケーション(再配分)が進行しているわけだ。

カルパースにしてもオルタナティブ(代替投資)の一選択肢として5年間で商品セクターへの大幅なアロケーション拡大を理事会決定しているわけだが、これまではエネルギー関連が殆どであった。それに代わって、今後は貴金属が彼らのレーダースクリーン上で認知されてくるのは当然の流れと思う。ただし、商品市場は規模が小さいから、あくまで"代替投資"の役割であり、せいぜい運用資産全体の最大でも5%程度が目途であろう。それでも商品市場に与える影響は計り知れない。

なお、昨晩は米国債入札が一転して好調との報がNY株式市場で歓迎された。まさに債券市場を睨み一喜一憂の反応である。ここで筆者が注目していることは、米国債最大の保有者の中国が、保有米国債を長期債から短期債へシフトさせていること。要は長期にわたって米国債を保有する気はない。やはり米中は"仮面夫婦"か。結婚後の藤原紀香さんの心境なのかな...。

2009年