豊島逸夫の手帖

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1040ドルは未だ史上最高値の半値にすぎない

2009年10月7日

金価格の議論で欧米と日本の最大の違いは、名目価格と(インフレ調整済み)実質価格を分けて論じるか否かにある。本欄とか筆者のセミナーでは触れてきたことだが、物価調整済み実質金価格の史上最高値は2200ドル。1980年につけた875ドルという旧史上最高値を、その後の物価上昇を加味すれば、2009年には2200ドルに相当するというわけ。そうなると、昨晩NYでつけた1040ドル台もまだ道半ば。通過点に過ぎない。

以上は鳥の目で見た金価格であるが、虫の目で見れば、表層雪崩警報発令中。昨晩のNYでは、さらにドカ雪が積もった。このまま急騰すればするほど、後の反落も急激になると心得るべし。逆V字型の展開になりそう。

ただし、現物市場には高値慣れの兆しも見える。インドは今月、お祭り、婚礼シーズン。花嫁の父も、いよいよ娘の結婚式が目前に迫り、金価格が高いから、ちょっと様子を見ようなどと悠長なことを言っていられなくなったようだ。ムンバイ渡しやドバイ渡しの現地金価格がロンドン渡しの国際標準価格に比し、プレミアムになっていることが、その証拠。これまでは1000ドルともなれば買い控え、リサイクル急増で現地需給がだぶつき、ロンドン価格よりディスカウントになるのが普通であったのだが。とはいえ、1040ドルにもなれば 再びディスカウントになっても不思議ではないけど。

ちなみにリサイクル(売り戻し)が、ここにきて引込んでいる。先高感が強くなると、もっと高くなるまで待とうという気持ちになるのだ。この人たちが1040ドルの声を聞いてどう出るか、注目されるところ。

それから、昨日は、英国インディペンデント紙が、原油決済を金を含む非ドル通貨に移行するために湾岸諸国と日本含む一部先進国が密約、と報道してマーケットを騒がせた。その後、否定報道もあったが、この手のゴルゴ・サーティ―ン的な陰謀説がまことしやかに流れるようになると、「ドル安」もちょっとハシャギ過ぎの感あり。金市場の過熱感がかえって浮き彫りになる。マーケットが貪欲になんでも買い材料にしてしまうようになると、だいたい一相場終わりなのだ。こういう「風評の流布」の源は、だいたい大量の買いを抱えたプロである。売り抜けるためには、自分から大量の売りをかけられないから、マーケットを煽って個人投資家に買わせるわけだ。

いまの金市場シアターは、買い持ちの人たちで超満員。そこから自分だけいかに首尾よく売り抜けて脱出するか。これも「出口戦略」と言えるかな。観衆がステージにくぎ付けになっている間に、ソーッと非常口から抜け出ることが出来るか。もし気づかれてしまうと、他の観衆も一斉に出口に殺到することになる。

2009年