豊島逸夫の手帖

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早くも出口戦略先取り?

2009年6月8日

今日の話は、あくまで"虫の目"で見た、やや細かなマーケットについての議論である。

全体的に景気回復が論じられるようになると、マーケットは先取りして、"出口戦略"としての利上げを意識し始める。米国債券市場で、先週金曜(5日)に10年もの国債の利回りが3.83%(一時は3.88%)にまで急騰した要因に、利上げ懸念が指摘されていることがその例である。これまでの米国長期金利上昇は、大量発行米国債の消化懸念という債券市場の需給要因であったが、5日は利上げという政策要因に転じている。

もし利上げになれば、ドル短期金利(FFレート)が現行の0.00%-0.25%から引き上げられ、ゼロ金利からの脱出ということになる。その可能性を映し、米国債でも短期の2年ものの利回りも上昇して、長短金利スプレッドが縮小した(2.7%台から2.5%台)ので、イールドカーブが、ややフラットになった事が象徴的である。

かくして、マーケットでは利上げ要因とインフレ要因の両方が飛び交う状況。同じ5日発表の米雇用統計では、新規雇用者数の減少幅が予想より減少した(less bad の例)ことを好感して、株式市場と商品市場は上昇した。(でも、失業率は9.4%に悪化。さらに新規雇用者数減少の絶対数は34万5千人にも達するわけで、筆者はとても楽観できないのだが。)

そして、その楽観論は利上げ観測にまで波及し、外為市場では米国実体経済好転=出口戦略早期発動=ドル利上げ=ドル買いの反応。読者の皆さんとしては、アレッ?これまでドル長期金利上昇は米国財政赤字拡大、米国債消化懸念による米国経済不安を示唆すると看做されドル売り要因だったのじゃないの?と言いたいところだろうが。(外為内部要因としてドルショートが逆を突かれ、ストップロスのドル買い戻しに走ったことが大きいけどね。)

さて、その中で、金価格は2%以上の急落。950ドル台まで下がった。ドル長期金利上昇が、米国債消化懸念=通貨増発という連想で金はこれまで買われてきたのだが、利上げということになると短期金利を含む全面金利上昇になるので、金利を生まない金は売られる。なんといっても直接的にドル高に転じたことで金は売りの展開。

しかも、NY金先物市場は買い残高が天井圏とされる600トン水準にまで接近していたので、手仕舞い売りが出やすい内部状況でもあった。1000ドルを期待して買い向かった投機筋で、weak longと言われる売買回転の早い連中の間には失望売りが見られる。

と、ここまで"虫の目"で6月5日の動きをまとめてみたが、さて、皆さん、どう感じるかな?なにか、屁理屈っぽい感じが否めないのではないかな?

要は、株式、商品はリスクマネーがウズウズして買いたくてしょうがないから とにかく楽観論に走る。金は、金融危機で株、商品が売られたときにも先行して既にかなり買われていたので、足元では多くの投機家がいつ売ろうか虎視耽々と狙っている様相。要は、米国雇用統計が(土曜の日経国際面の見出しの表現どおり)"明暗混在"したので、マーケットは結局それぞれが自分の行きたい方向に動いた感じだ。

株、商品は、利上げという下げ材料は無視して、とりあえず上げたい。金は、通貨増発懸念といえど年後半という未だ先の話しということで、一息入れたい。債券だけは、米国債消化という需給要因も、利上げという構造政策要因も、売り=利回り上昇という方向性では一致している。

商品と金の動きが違うのは、金がよりマネーに近いのでドル高に敏感に反応しているということだろう。商品だってドル安を囃して上昇してきた経緯もあるのだが、ここは素直に景気回復期待に乗りましょう、乗りたいのだという気持ちの表われか。

ということで、今朝は、足元のマーケットの短期的動向をまとめた。しかし、これが"魚の目"で見て、明らかな"潮流"の変化とはとても言えないことを最後に強調しておきたい。

失業率9.4%、新規雇用者34万人減の経済に対して、早めの出口戦略ということで利上げを実行したら、どうなるか?住宅ローン金利はどうなるか?ちょっと考えただけでも時期尚早、フライング気味でしょう。バーナンキの気持ちとして早めに出口戦略を出動させたいことは分かるけどね。ここは、お気持ちだけ、受け取っておきます。

2009年